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Ⅲ Archer
3-4 不備
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鈍痛。そして、すぐその後に激痛。
「……えっ、何、痛っ、痛い! 痛い痛い痛いっ!」
痛い。右肩に激痛、左足首と背中に鈍痛。鈍痛の方は叫ぶほどではないが、とにかく右肩が痛くてたまらない。
「宗耶さん!? どうしたんですか!」
俺の絶叫は少なくとも家中に響いたようで、慌てた様子の椿が部屋に飛び込んでくる。
「ぁ、ちょっと、だけ、待って、て」
痛みに耐えつつ、どうにか机まで向かう。目当ての手鏡を見つけ、急いで眼前に翳す。
「……ふぅ、いや、正直ここまでいかれてるとは思わなかった」
自己催眠でどうにか痛みを忘れるも、肩の腫れとそこから来る違和感は消えない。
昨晩は催眠に掛かったまま寝てしまったから気付かなかったが、由実から受けた狙撃は俺に肩を腫れ上がらせるだけの打撃を与えていたようだ。骨折していなければいいが。
「あの、どうしたんですか?」
「いや、ちょっと昨日の傷が痛んだだけだから、心配しなくても大丈夫」
心配そうな椿に、右肩を回してアピールしようとするも上手くいかない。結構深刻な状態になっているのかもしれない。
「とは言え、放置しておくのもまずいから治療に行きたいんだけど……」
例え骨折していようとも、治癒能力を持つ白岡なら数分とかからず完治させる事ができる。問題は、日曜日である今日、はたして白岡と出会う事ができるのかどうかだ。
白岡が生徒会室にいる頻度はそれなりに高いが、休日ともなれば話は別。そして、白岡と特に親しいわけでもない俺は彼女の連絡先を知らなかった。同じ生徒会、その中でも白岡と仲の良い由実ならば多分知っているだろうとは思うが、昨日の今日で本人から受けた傷の治療の仲介を頼むわけにもいかない。
「一応聞くけど、椿は回復能力とかは持ってない?」
「……えっと、すみません。多分そういう事はできないと思います」
椿のジョブならば回復系もカバーしているかとも思ったが、返事は芳しいものでは無かった。ゲーム風に言って、まだレベルが足りないだけかもしれないが。
仕方ない。とりあえずは学校に向かうとしよう。白岡がいなくても、会長か藍沢辺りがいてくれればそこから連絡先を聞き出せるかもしれない。
ベッドを下り、そのまま部屋を出ようとするも、こちらを見上げる椿がやけに呆けて見えるのが気に掛かった。
「……ああ、悪い。椿はまだ眠いか」
そもそも、椿が起きたのは俺の絶叫のせいだ。ただでさえ慣れない生活で疲れが溜まっているはずの椿は、昨日の深夜も戦闘によって睡眠を中断されている。休日くらいはゆっくりと寝かせておくべきだろう。
「俺は出かけるから、まだ寝ててくれ。朝食とかも適当にあるもの食べていいから」
そうして外へ出ようとすれ違った瞬間、椿の肩が小さく跳ねた。
「あ……っと、いえ、もう眠くはありません」
頭をぶんぶんと振ると、椿は立ち上がり俺と視線を合わせる。
「ただ、その、やっぱり宗耶さんが呼び捨てにしてくれてるなぁ、って思って」
「……あ、そうだな」
椿の言葉で、彼女に対して意図的にしていた『さん』付けが外れていた事に気付く。口調もほとんど親しい者へのそれに近付いており、つまりは無意識の内に俺から椿への距離感が縮まっていたという事なのかもしれない。
「……本当は昨日みたいに名前で呼んでもらった方が嬉しいんだけど」
小声で呟いた椿の独り言は、はっきりと俺の耳にまで届いていた。
しかし、残念ながら、いくら距離感が縮まったところで俺が椿を名前で呼ぶ事になるはずも無い。そこを越えてしまえば、色々なモノが崩れ去ってしまう気がした。
「とりあえず、俺は白岡を探しに学校に行くけど、眠くないなら着いて来る?」
なので、椿の独り言は聞こえなかった事にする。
かくして、ここに難聴系遊び人が誕生するのであった。代わりに目がいいからプラマイゼロという事にしよう。
「そうですね、じゃあ私も着いて行きます」
頷いた椿の表情は、やはりどこか不満気であった。
「……えっ、何、痛っ、痛い! 痛い痛い痛いっ!」
痛い。右肩に激痛、左足首と背中に鈍痛。鈍痛の方は叫ぶほどではないが、とにかく右肩が痛くてたまらない。
「宗耶さん!? どうしたんですか!」
俺の絶叫は少なくとも家中に響いたようで、慌てた様子の椿が部屋に飛び込んでくる。
「ぁ、ちょっと、だけ、待って、て」
痛みに耐えつつ、どうにか机まで向かう。目当ての手鏡を見つけ、急いで眼前に翳す。
「……ふぅ、いや、正直ここまでいかれてるとは思わなかった」
自己催眠でどうにか痛みを忘れるも、肩の腫れとそこから来る違和感は消えない。
昨晩は催眠に掛かったまま寝てしまったから気付かなかったが、由実から受けた狙撃は俺に肩を腫れ上がらせるだけの打撃を与えていたようだ。骨折していなければいいが。
「あの、どうしたんですか?」
「いや、ちょっと昨日の傷が痛んだだけだから、心配しなくても大丈夫」
心配そうな椿に、右肩を回してアピールしようとするも上手くいかない。結構深刻な状態になっているのかもしれない。
「とは言え、放置しておくのもまずいから治療に行きたいんだけど……」
例え骨折していようとも、治癒能力を持つ白岡なら数分とかからず完治させる事ができる。問題は、日曜日である今日、はたして白岡と出会う事ができるのかどうかだ。
白岡が生徒会室にいる頻度はそれなりに高いが、休日ともなれば話は別。そして、白岡と特に親しいわけでもない俺は彼女の連絡先を知らなかった。同じ生徒会、その中でも白岡と仲の良い由実ならば多分知っているだろうとは思うが、昨日の今日で本人から受けた傷の治療の仲介を頼むわけにもいかない。
「一応聞くけど、椿は回復能力とかは持ってない?」
「……えっと、すみません。多分そういう事はできないと思います」
椿のジョブならば回復系もカバーしているかとも思ったが、返事は芳しいものでは無かった。ゲーム風に言って、まだレベルが足りないだけかもしれないが。
仕方ない。とりあえずは学校に向かうとしよう。白岡がいなくても、会長か藍沢辺りがいてくれればそこから連絡先を聞き出せるかもしれない。
ベッドを下り、そのまま部屋を出ようとするも、こちらを見上げる椿がやけに呆けて見えるのが気に掛かった。
「……ああ、悪い。椿はまだ眠いか」
そもそも、椿が起きたのは俺の絶叫のせいだ。ただでさえ慣れない生活で疲れが溜まっているはずの椿は、昨日の深夜も戦闘によって睡眠を中断されている。休日くらいはゆっくりと寝かせておくべきだろう。
「俺は出かけるから、まだ寝ててくれ。朝食とかも適当にあるもの食べていいから」
そうして外へ出ようとすれ違った瞬間、椿の肩が小さく跳ねた。
「あ……っと、いえ、もう眠くはありません」
頭をぶんぶんと振ると、椿は立ち上がり俺と視線を合わせる。
「ただ、その、やっぱり宗耶さんが呼び捨てにしてくれてるなぁ、って思って」
「……あ、そうだな」
椿の言葉で、彼女に対して意図的にしていた『さん』付けが外れていた事に気付く。口調もほとんど親しい者へのそれに近付いており、つまりは無意識の内に俺から椿への距離感が縮まっていたという事なのかもしれない。
「……本当は昨日みたいに名前で呼んでもらった方が嬉しいんだけど」
小声で呟いた椿の独り言は、はっきりと俺の耳にまで届いていた。
しかし、残念ながら、いくら距離感が縮まったところで俺が椿を名前で呼ぶ事になるはずも無い。そこを越えてしまえば、色々なモノが崩れ去ってしまう気がした。
「とりあえず、俺は白岡を探しに学校に行くけど、眠くないなら着いて来る?」
なので、椿の独り言は聞こえなかった事にする。
かくして、ここに難聴系遊び人が誕生するのであった。代わりに目がいいからプラマイゼロという事にしよう。
「そうですね、じゃあ私も着いて行きます」
頷いた椿の表情は、やはりどこか不満気であった。
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