骨董術師は依代に唄う

玄城 克博

文字の大きさ
上 下
44 / 49
Ⅳ Cheat

4-17 顛末

しおりを挟む
 ヨーラッド・ヌークス。
 その名前は、かつてのアーチライト・コルア・ウィットランドを知る者にとっては憎悪の対象であり、だがアーチライトの親友であったニグル・フーリア・ケッペルがその名に感じるのは哀切以外の何物でもなかった。
 曰く、大陸最悪の魔術師。
 なるほど、彼の為した悪行を数えれば、その名に偽りはないだろう。ただ、ニグルと彼の暮らすマレストリ王国に対して直接ヨーラッドの手が及んだ事はない。その点においてニグルがヨーラッドを憎む理由はない。
 曰く、アーチライト・コルア・ウィットランドを殺した魔術師。
 アーチライトの周囲の人間にとっては、むしろこちらが主たる憎悪の理由だ。
 だが、それは嘘。
『ニグル自身が』進んで流布した虚偽を理由に、ニグルがヨーラッドを憎むなんて事はあまりに馬鹿げている。
 ヨーラッド、そしてアーチライトの真実を知るのは、ニグルただ一人。
 時のマレストリ王国騎士団長アーチライト・コルア・ウィットランドは、大陸最悪の魔術師ヨーラッド・ヌークスの蛮行を止めるため、各地から精鋭を集めた討伐隊の一人としてヨーラッドの塒へと攻め入った。
 ここまでは真実、公然の真実だ。
 そして、ヨーラッドに破れた。
 これが嘘。
 公に知られている、ニグルが公に知らせた嘘。
 真実では、アーチライトはヨーラッドに勝利した。
 勝利と呼べるかすら危うい、紙一重のものではあったが、それでも長い戦闘が終わった後、最後に立っていたのはアーチライトだった。
 だから、それ以降のヨーラッド・ヌークスの存在は、ニグルが自らの宝石人形にそう騙らせただけのものでしかない。
 ただ、それでも、ヨーラッドが死んだとしても、アーチライト・コルア・ウィットランドの死だけは覆しようのない真実だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...