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ささやかな願いを偲ばせて

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「とりあえず今回の旅費については、全額俺が負担する。それくらいはさせてもらわねーと、俺の気が済まねーんだ。だから俺のためと思って、受け取ってくれ」
「……分かりました。有難くお受けさせていただきますね」
「ああ、ありがとな」

 頷けば、皇さんが安堵の笑みを浮かべる。
 これで話が纏まったかと思いきや、またもや黒瀬くんが切り出した。

「あ、でも払ってくれるのは、俺の分だけでいいよ」
「何でだ?」
「いくら皇さん相手でも、百合子さんの分を、他の男に払わせたくないから」
「……ああ、そういうことか」

 皇さんは納得した様子で頷いているけど、話を聞いていた美代さんと萌黄さんは、あからさまに顔を顰めている。

「えー、払ってくれるって言ってるんだから、そこは別に良くない?」
「アンタ、そこまでいくと重いわよ」
「は? 何が?」
「……まあアンタが重いことなんて、分かり切ってたことだけど」

 しれっとした顔をしている黒瀬くんに、二人は揃って呆れた目を向けている。そして何故だか、私の分の旅費を黒瀬くんが払ってくれるという方向で、話が纏まっているみたいだ。

「ちょっと待って。黒瀬くんが払うなら、私だって払うよ」
「大丈夫だよ。そもそも今回の旅費は、元々俺が全額支払ってるから。百合子さんに払わせるつもりなんてなかったしね」
「……え? だって私、黒瀬くんにお金、渡したよね?」

 黒瀬くんがネットで予約をしてくれるって言うから、代金は黒瀬くんに直接手渡した。黒瀬くんも、確かにそれを受け取ってくれたはず。

「うん。百合子さんに返しても絶対に受け取ってくれないだろうなって思ったから、俺が預かってた。いつかこっそり返そうと思って」
「こっそり返すって……」

 ここの宿代だって決して安くはないし、黒瀬くんは彼氏とはいえ、年下だし……。いや、歳の差を理由にするのは違うかもしれないけど、でも、だからって全額支払ってもらうのは、さすがに申し訳ない。

「まあ、いいじゃない」

 悶々としていれば、そんな私の気持ちを見透かしたかのように、美代さんがさっぱりした声で言う。

「こう見えて椿、結構稼いでるのよ?」
「ちょっと美代さん。こう見えてってどういうこと?」
「だって、プロのヒモって言われても納得の見た目してるでしょ、アンタ」
「あー、確かに。お姉さま方に主導権を持たせてると見せかけといて、その実、椿の方が掌でころっころしてた時期とか、あったしねぇ」

 黒瀬くんが不服そうな声で返せば、美代さんが主観を述べて、萌黄さんはそれに深々と頷く。
 プロのヒモ……確かに黒瀬くん、女の人の家を転々としている時期があったって言っていたし、あながち間違っていないのかもしれない。

「百合子さんの前で余計なこと言わないでくれる?」
「何よ。事実じゃない」

 私はもう知っているから今更だと思うんだけど、黒瀬くんは黒い笑みを浮かべて、美代さんたちに突っかかる。
 ああ、また言い合いが始まってしまった。脱線してしまった旅費についての話は、また時間を改めて、黒瀬くんに抗議する必要がありそうだ。

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