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君だけの○○だから
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しおりを挟む「……誰のことですか?」
「いいよ、知らない振りなんてしなくても。彼、とんでもない男らしいよね。一人で複数人のヤクザ連中を圧倒的な強さで伸したり、相手が降参しても容赦なく暴力を振りかざして痛めつけたりする、冷酷で残忍な奴だって聞いたよ。忠犬っていうよりも、狂犬って表現の方が正しいのかな?」
「……」
――この人、さっきから何なの? 黒瀬くんのことを残忍だとか冷酷だとか、その現場を見たわけでもないのに、適当なことばかり言って……。
自分がムッとした顔をしているという自覚はある。彼氏について好き勝手なことを言われて、良い気持ちになるわけがない。
多分この人は、そんな私の気持ちを見透かしたうえで、私の反応を見て、愉しんでいるのだろう。
「皇組とは、今まで角が立たないような付き合いをしていたんだけど……正直、ウチの商売の邪魔なんだよね。違法売買なんてどこの組の連中もやってるっていうのに、一々口出ししてきやがって……本当に、迷惑してるんだよ」
聞いてもいないのに、男性は組の内部事情であろうことを、ペラペラと口にする。
「神社で一緒にいた男が、噂の忠犬なんだろう? ということは君は、あの男の良い人っていうわけだ」
「……そうだとしたら、何なんですか」
もうバレているのなら、白を切っても仕方ないだろう。黒瀬くんとの仲を認めれば、男性はにんまりと口許に弧を描く。
「君の選択肢は二つだ。君自ら彼の情報を吐くか、君に人質になってもらって彼を脅すか。さて、どちらがいいかな?」
「……最低な選択肢しかないんですね」
「そうかな? これでも、かなり譲歩した方だと思うんだけど」
「第三の選択肢です。私が話せることは、何もありません」
「……あぁ、そうだ。選択肢はもう一つあるんだった」
男性は、自身の背後にチラリと視線を向けた。それを合図に、後ろで控えていた男たちが動き出す。
「何を……っ、触らないで!」
「選択肢、その三。君が大人しく口を割らないのなら、割らせるようにするまでだよ。彼の弱点の一つや二つ、知ってるだろ?」
下卑た笑みを湛えた男たちが、私の身体に触れてくる。
「っ、だから、私は本当に、そんなの知りません! 黒瀬くんに弱点なんてないですから! それに、もし知っていたとしても……貴方たちみたいな卑怯な人になんて、絶対に教えません。そんなの、本人に正々堂々聞いたらいいじゃないですか!」
身体を捩って抵抗しながら、指示を出している糸目の男性を睨み付ける。
「あはは、正々堂々、か。俺が大嫌いな言葉だよ。……もういい、やれ」
笑っていた男性は、表情をスッと消し去ったかと思えば、冷え切った目で、部下らしき男たちに指示を出す。それを合図に、非道な行為が再開される。
「っ、やだ! 触らないで……!」
「へへ。大人しくしとけば、悪いようにはしねーよ」
必死の抵抗も虚しく、縄で拘束されている手足を、男たちの手によって更に地面に縫い付けられる。荒っぽい男たちの手によって、綺麗に着付けてもらった着物を暴かれる。生温い手が、太腿を撫でる。無骨な手に、腹部を弄られる。
――気持ち悪い。
不快で、惨めで、怖くて、こんな奴らの前で泣きたくなんてないのに、涙が零れそうになる。
(っ、黒瀬くん……黒瀬くん、黒瀬くん……!)
大好きな人の名前を、心の中で、何度も呼ぶ。
ガッシャーンッ!
――倉庫の扉が、激しい音を立てて開かれた。
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