逃げられるものならお好きにどうぞ。

小花衣いろは

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君だけの○○だから

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(此処は……そうだ、私、変な薬を嗅がされて……)

 ぼんやりする頭で辺りを見渡す。どうやら私は、倉庫のような場所に連れてこられたらしい。手足は縄でしっかりと拘束されていて、自力で解くのは難しそうだ。

(昨日、皇さんに、仕事の邪魔にはならないように気をつけるって言ったばかりなのに……)

 声を掛けてきた男が何者なのかは分からないけど、“皇組の若頭”と、はっきり口にしていたことは覚えている。つまり、組絡みのことで、私は拉致されたのだろう。
 正直、あれは中々に回避が難しい状況だったとも思うけど……結局捕まって、迷惑をかけてしまっている。だって皇さんたちは――黒瀬くんは、絶対に助けにきてくれるって、確信をもって言えるから。

 そうしたら、また乱闘になってしまうかもしれない。

 私を攫ったあの男性の目的は分からないけど、もし私を人質にしようと考えているのなら……私が捕まっているせいで、黒瀬くんたちが傷つけられてしまうかもしれない。

(そうなる前に、何とか私一人で逃げ出せないかな……)

 倉庫内は静まり返っている。耳をすませば、外の方から、微かに車の排気音が聞こえてくる。でも人の気配はしないから、逃げ出すとしたら、今がチャンスだ。

 まずは手の拘束を解けないかと、両手をもぞもぞと動かしてみる。摩擦で縄が切れないかなと思って地面に擦りつけてみるけど、そう簡単にいくはずもない。
 むしろ手の甲が地面に擦れて、ジクジクと痛みだす。この状況じゃ確認できないけど、絶対に血が滲んでいると思う。

(早く何とかしないと、誰かがきちゃうかも……)

 この状況を打破する方法が見つからず、焦りばかりが募っていく。

 ――そんな私の悪い予感は、見事に的中してしまったらしい。

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