逃げられるものならお好きにどうぞ。

小花衣いろは

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ぶち壊しムードの果てには尋常に勝負

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「そうさなぁ……まぁヤクザって一口にいっても、組によって、やってることは多少なりは違うな。ウチでは、金融屋から飲食店、風俗店なんかまで色々な店舗の運営をしてる。あとは、そうだなぁ……祭りでテキ屋をしたり、用心棒なんかをすることもあるぞ?」
「用心棒、ですか? 何だか格好いいですね」
「はは、んな格好いいもんでもねーけどな。椿はウチに所属してるわけじゃなく、ただ俺との個人的なビジネスパートナーってだけだが、手が足りない時なんかは、嬢ちゃんが格好いいっつー用心棒の仕事を手伝ってもらうこともあるな」
 
 皇さんは躊躇する様子もなく、仕事のことについて色々な話を聞かせてくれた。といっても、そこまで踏み込んだ話をしてくるわけでもない。一般人の私が聞いても問題ない程度の話を聞かせてくれているんだろうなって、伝わってくる。

「そういやぁ嬢ちゃんは、椿とは何処で出会ったんだ?」
「黒瀬くんとですか? 黒瀬くんとはバーで偶然出会って、それで……何やかんやあって、仲良くなった感じですね」
「そうか。その何やかんや、が気になるところだが……そこまで聞くのは野暮ってやつか?」
「そ、……うですね。そこは秘密です」
「はは、秘密か。そりゃ残念だ」

 さすがに馴れ初めまで詳しく話すのは、気恥ずかしい。
 皇さんは、そんな私の心情を見透かしているみたいで、クツクツと笑っている。

「ひ、秘密ですけど、でも……正直、初めは黒瀬くんのことを好きになるなんて絶対にありえないって、そう思ってたんです。でも、気づいたら黒瀬くんのことばかり考えるようになって……」

 いつだって自分に自信が持てなくて、何の取り柄もない自分が、ひどくつまらない人間に思えて。
 だから、こんな私を誰かが好きになってくれることも、誰かを心から好きになることもないんじゃないかって、本気で思ってた。それなのに――人生って、何が起こるか分からないものだ。今では黒瀬くん以外の誰かを好きになる未来なんて、想像できないんだから。

「その台詞、椿が聞いたら泣いて喜びそうだな」

 皇さんは茶化すような口調で言いながらも、足を止めて、私に向き合う。
 何か大切なことを言おうとしている――そんな雰囲気を感じる。

「椿は良い奴だ。だが……一緒にいることで、今後、危ない目に遭うこともあるかもしれねぇ」

 その言葉で、以前、黒瀬くんが大勢の男たちに囲まれていた時のことを思いだした。
 あの時は、すごく怖かった。黒瀬くんが大怪我しちゃうかもしれないって、恐怖で足が竦んだ。
 出来ることなら、もうあんな怖い思いはしたくないって、そう思う。だけど黒瀬くんは、“そういう世界”に身を置いている人なんだ。それなら私は――。

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