逃げられるものならお好きにどうぞ。

小花衣いろは

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ぶち壊しムードの果てには尋常に勝負

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「それじゃあ俺は、百合子さんと一緒の…「ちょーっと待った! やるなら公平に、グーチーパーで決めるわよ!」
「えぇー……」
「スポーツする時くらい、ちょっとは百合子ちゃん離れしなさいよ!」
「百合子さん離れ? 何それ?」
「そのきょとん顔、ウザいから止めなさい!」

 皆の浴衣姿を見て感心していれば、美代さんと黒瀬くんがチーム分けで揉めている声が聞こえてくる。
 美代さんの提案に、黒瀬くんは不機嫌顔をますます顰めているけれど、今この場において美代さんに逆らえる人などいるはずもなく、結局は五人でグーチーパーをすることになった。余った一人は審判役になるらしい。
 私としては審判役に立候補したいくらいだったんだけど、結果は――私と皇さんがパーで、黒瀬くんと美代さんがグー、萌黄さんがチョキという結果になった。

「えぇ、美代さんと? ……やだ。俺は百合子さんとペアじゃないと無理」
「そんじゃあ、オレと変わるか?」
「ワガママ言ってんじゃないわよ! 慎二さんも、甘やかさないでください! スポーツにそういう不正は厳禁ですから!」

 ――ゲームセンターでホッケーをした時も思ったけど、美代さんはこういった勝負事には人一倍熱くなるタイプらしい。

「嬢ちゃん、よろしくな」
「はい、よろしくお願いします。私、こういうのはあまり得意ではないので、足を引っ張ってしまうかもしれませんけど……」
「はは、別にいいさ。楽しけりゃそれで十分だろ」

 皇さんと話していれば、卓球台の向こう側から、美代さんと黒瀬くんの話し声が聞こえてくる。

「椿、分かってるわね? やるなら完全勝利よ」
「それは良いけど、狙うなら慎二さんだけにしてね」
「はぁ? アンタ、スポーツ舐めてる? そんなの無理に決まってるでしょ」
「はぁ、出たよ。美代さん、変な所で熱血出してくるからなぁ……」

 黒瀬くんは深々と大きな溜め息を漏らしている。でも、何だかんだ言って、黒瀬くんもこんな風に皆で遊ぶことは好きなのだと思う。呆れ顔の中に、楽しそうな色が垣間見える気がするから。

「せっかくだし、負けたチームには罰ゲームとかありにしちゃえば?」

 そんな提案を口にしたのは、萌黄さんだ。自分が絶対に罰を受けることのない審判という役割だからだろう。一人でニヤニヤと楽しそうに笑っている。

「罰ゲームねぇ……まぁ、その方がやる気も出るしいいんじゃない?」

 美代さんからOKが出たため、負けた方には罰ゲームが課せられることが決定してしまった。……どうやら、勝ち負け関係なく楽しむだけでは、済まなくなってしまったみたいだ。

「それじゃあ両者、正々堂々プレーしてくださいね~。はい、始め~」

 ――萌黄さんの緩い声を合図に、今、戦いの火蓋が切られた。

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