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ぶち壊しムードの果てには尋常に勝負
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しおりを挟む「く、黒瀬くん。誰か来たみたいだよ」
「……いいよ。居留守使っちゃお」
「でも……」
私の頬をゆるりと撫でた黒瀬くんは、再び顔を近づけてくる。
だけど――“ピンポンピンポンピンポーンッッ‼”
止むことなく鳴り続けるその音に、数秒、何かを堪えるようにグッと固まっていた黒瀬くんだったけど、渋々身体を起こして玄関に向かっていった。私もその後に続いて、来客者を確認すべく扉の向こうに目を向ける。まぁ、大体の予想はついているんだけど……。
黒瀬くんが扉を開ければ、そこに立っていたのは、長い黒髪を後ろでお団子にしている萌黄さんだった。……うん、やっぱり予想通りだった。
「中々出てこないから、二人共寝てるのかと思ったじゃん。……っていうことで、これから皆で卓球でもしに行かなーい?」
「……何が、っていうことで、なのかは知らないけどさ。とりあえず、一発ぶん殴ってもいい?」
笑いながら青筋を立てている黒瀬くんに、萌黄さんは口許を引き攣らせる。
「……え˝っ、何々。もしかしておれ……お邪魔しちゃった感じ?」
「あはは、邪魔でしかないに決まってるだろ?」
「あ、あはは……ま、まぁまぁ、そういう時もあるって。ドンマイ椿!」
「殴る」
「ぎゃっ! ちょちょ、京都まできて流血沙汰はヤバいから! 椿落ち着けって! 百合子ちゃんも、見てないで止めて!」
私は黒瀬くんの背後にいるからその顔を見ることはできないけど、対峙している萌黄さんの顔は、目に見て分かるほどに蒼ざめている。
必死な形相でヘルプを求めてくる萌黄さんが不憫に思えてきたので、間に入って黒瀬くんを何とか宥めてから、美代さんと皇さんが待っているという卓球スペースに向かうことになった。
「ちょっと、来るのが遅いじゃない! って、……何よ。椿のやつ、何であんなに不機嫌なわけ?」
「えーっと、その……まぁ、色々ありまして」
美代さんは黒瀬くんの機嫌が悪いことに、すぐに気づいたみたいだ。
――まぁ、あれだけあからさまにふくれっ面をしていたら、気づくなという方が難しいのかもしれないけど。
「まぁいいわ! ほら、早く卓球しましょ!」
薄紅色の浴衣を可愛らしく着こなしている美代さんは、黒瀬くんの機嫌の悪さには一切触れることなく、卓球のラケットを手にして、やる気満々といった様子だ。
「にしても、卓球なんて久々にやるなぁ」
黒色の浴衣を着ている皇さんは、温泉に入ったからだろうけど、いつもは長い前髪を上げるようにセットされているのに、今は垂れ下がっている。漂う色気がいつにも増して凄まじい。
というか……黒瀬くんもそうだけど、萌黄さんも皇さんも、皆顔立ちが整っているから、浴衣が物凄く似合って見える。着用している本人の為に作られた浴衣だと言われても信じてしまいそうなほどのしっくり具合だ。
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