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ぶち壊しムードの果てには尋常に勝負
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しおりを挟む身体を拭いて、貸し出してもらった淡い花柄の色浴衣に袖を通して、ドライヤーで髪を乾かしていれば、遅れて上がった黒瀬くんがやってきた。
一瞬だけそちらに目をやれば、白い縞模様が入った濃紺色の浴衣を身に付けている。……悔しいけど、すごく似合ってる。格好良すぎてズルいくらいだ。
「ゆーりこさん」
「……」
「浴衣、可愛いね。似合ってるよ」
「……ありがと」
「……ねぇ百合子さん、まだ怒ってる?」
ドライヤーの温風に紛れて確かに耳に届いた声は、弱々しくて覇気がない。
電源を切ったドライヤーを置いて、チラリと視線だけ向ければ、しゅんとした子犬みたいな表情をした黒瀬くんがいて、私をジッと見つめている。
「怒ってるよ。……ちょっとだけ」
「……ごめんね?」
コテンと小首を傾げている黒瀬くんは、自分の顔がいいことを自覚してやっているに違いない。
そして、それに気づいているのにコロッと絆されて許しちゃう私は、馬鹿な女なのかもしれない。……これが惚れた弱みってやつなのかな。
でもまぁ、せっかく旅行に来てるんだから、仲良く楽しみたいしね。
「……仕方ないから、許す」
その一言を伝えれば、黒瀬くんの顔は瞬時に明るくなった。
「よかった。それじゃあ……」
「え? っ、わ、ちょっと黒瀬くん……!?」
しょんぼり顔から一変して、ニコリと満面の笑みを広げた黒瀬くんに抱きかかえられた私は、そのまま布団の上に押し倒される。
「ちょ、ちょっと待って? 私まだ、心の準備が……」
「俺、百合子さんが嫌なことは絶対にしないよ。でも……百合子さんは、俺に触られるの、嫌?」
「……嫌、なわけないよ。ただ、その……」
――黒瀬くんは経験豊富そうだけど、対する私は正反対で、そういった経験はゼロと言っていい。だから、胸の中を占める恥ずかしさと、ほんの少しの恐怖心のせいで、どうしても身構えてしまうのだ。
「……大丈夫だよ。百合子さんが怖いことは何もないから。なるべく痛くないようにするし、優しくする。でも、もし途中でどうしても怖くなったり嫌になったりしたら、その時は我慢しないで言ってほしい。百合子さんのこと、大切にしたいから」
黒瀬くんは私の胸中を見透かしたみたいに、一つひとつの不安を取り除いてくれるように、言葉を紡いで届けてくれる。頬に触れる温かな手に、真摯なまなざしに、私の中にある恐怖心が少しずつ小さくなっていく。恥ずかしさの方は……やっぱり消えてはくれないけれど。
「……うん、分かった」
覚悟を決め、頷いて返せば、目を細めて微笑んだ黒瀬くんの綺麗な顔が、ゆっくりと近づいてくる。
瞼を下ろして唇に触れる熱を待っていた、そのタイミングで――来客を知らせるインターホンの音が鳴り響いた。
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