102 / 134
ぶち壊しムードの果てには尋常に勝負
1
しおりを挟む「それじゃあ、おれは温泉に行こうかなぁ。慎二さんも行くでしょ?」
「あぁ、そうだな」
「あ、美代も一緒に入る?」
「セクハラではっ倒すわよ」
「おぉ、こわっ」
萌黄さんが表情を引き攣らせながら、美代さんから距離をとるように一歩後退った。
――旅館に戻ってきた私たちは、夕食を皇さん達の部屋に集まって済ませた。
部屋分けはどうなるのかと思っていたけど、そこは当初の予定通り、私と黒瀬くんが同じ部屋で、皇さんと萌黄さんが同室、美代さんは一人部屋にしたらしい。美代さん曰く、皇さんと一緒の部屋で寝るのはさすがに気恥ずかしいとのことだ。
すっぴんを見られたくないと恥じらっている姿はとても可愛かったけど、「化粧してもしてなくても、別に何にも変わんなくない?」とうっかり失言を漏らした萌黄さんは、鳩尾に重たい一発をお見舞いされていた。
――皇さんが天ぷらと炊き込みご飯に夢中になっているタイミングをばっちり見計らっていたところが、さすが美代さんだなと思いました。
そして、豪勢な会席料理に舌鼓を打った私たちは、各々部屋に戻って自由に過ごすことになったのだ。
萌黄さんと皇さんは、このまま二人で大浴場に向かうみたい。三人と別れた私と黒瀬くんは、今日から二日間寝泊まりすることになる部屋に戻ってきた。
「本当に、すごく素敵な部屋だね」
「うん、そうだね」
改めて室内を見渡してみれば、和洋室の客室は温かみの感じられる空間になっていて、二人で使うには十分すぎるくらいの広さになっている。壁には何だか高そうな掛け軸なんかも飾られているし、黒瀬くんが良い部屋を予約してくれていたことが伝わってくる。
二人で落ち着いた色合いのカウチソファに腰を下ろせば、シンとした静けさが辺りを包み込んだ。今までがすごく賑やかだったから、音のしなくなった空間に、ほんの少しだけ緊張してしまう。
そんな空気の中で口火を切ったのは、黒瀬くんだった。
「ねぇ、百合子さん。前に俺が言ったこと、覚えてる?」
「え? ……何のこと?」
「温泉。一緒に入ろうって言っただろ?」
――そういえば。この旅館は客室露天風呂付きの部屋があって、私たちが今いるこの部屋が、まさにそうだったっけ。
「……そんなことも、言ってたような?」
「じゃあ、早速一緒に入ろっか」
「……え、今から!?」
「うん、今から」
立ち上がった黒瀬くんは着替えやらを準備し始めているけど、対する私は中々動き出せない。
――だって、お風呂ってことは、つまり、その……黒瀬くんの前で裸になるってことで……。この歳にもなって恥ずかしいけど、年齢=彼氏いない歴だった私は、恋人と一緒にお風呂に入るだなんて経験があるわけもないのだ。普通に恥ずかしさが勝ってしまう。
「百合子さん、早く。あ、俺が着替えとか準備してあげようか?」
「だ、大丈夫! 自分でするから!」
「そう? ……脱がす方のお手伝いも、百合子さん限定でいつでも受け付けてるから、必要だったら声掛けてね」
ニッと笑った黒瀬くんの顔が、何だか意地悪に見える。してやられた感があるけど……せっかくの旅行だし、多少の恥ずかしさは我慢することにしよう。
腹をくくった私は、黒瀬くんには先に行ってもらって、心を落ち着かせるためにあえてゆっくりと入浴の準備をしてから、外の露天風呂に続くスライドの扉をそっと開いた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

【完結】婚約破棄されたので隠居しようとしたら、冷徹宰相の寵愛から逃げられません
21時完結
恋愛
「君との婚約は破棄する。新しい婚約者を迎えることにした」
社交界では目立たない公爵令嬢・エレノアは、王太子から突然の婚約破棄を告げられた。
しかもその理由は、「本当に愛する女性を見つけたから」――つまり、私ではなく別の令嬢を選んだということ。
(まあ、王太子妃になる気なんてなかったし、これで自由ね)
厄介な宮廷生活ともおさらば!
私は静かな領地で、のんびりと隠居生活を送るつもりだった。
……しかし、そんな私の前に現れたのは、王国宰相・ヴィンセント。
冷酷無慈悲と恐れられ、王宮で最も権力を持つ彼が、なぜか私のもとを訪ねてきた。
「エレノア、君を手に入れるために長く待った。……これでようやく、俺のものになるな」
――は? ちょっと待ってください。
「待ってました」とばかりに冷酷な宰相閣下に執着されてしまった!?
「君が消えてしまう前に、婚約破棄は阻止しておくべきだったな」
「王太子に渡すつもりは最初からなかった。これからは、俺の妻として生きてもらう」
「逃げる? ……君は俺から逃げられないよ」
私はただ田舎で静かに暮らしたいだけなのに、なぜか冷徹宰相の執着から逃げられません――!?
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる