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ぶち壊しムードの果てには尋常に勝負
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しおりを挟む「それじゃあ、おれは温泉に行こうかなぁ。慎二さんも行くでしょ?」
「あぁ、そうだな」
「あ、美代も一緒に入る?」
「セクハラではっ倒すわよ」
「おぉ、こわっ」
萌黄さんが表情を引き攣らせながら、美代さんから距離をとるように一歩後退った。
――旅館に戻ってきた私たちは、夕食を皇さん達の部屋に集まって済ませた。
部屋分けはどうなるのかと思っていたけど、そこは当初の予定通り、私と黒瀬くんが同じ部屋で、皇さんと萌黄さんが同室、美代さんは一人部屋にしたらしい。美代さん曰く、皇さんと一緒の部屋で寝るのはさすがに気恥ずかしいとのことだ。
すっぴんを見られたくないと恥じらっている姿はとても可愛かったけど、「化粧してもしてなくても、別に何にも変わんなくない?」とうっかり失言を漏らした萌黄さんは、鳩尾に重たい一発をお見舞いされていた。
――皇さんが天ぷらと炊き込みご飯に夢中になっているタイミングをばっちり見計らっていたところが、さすが美代さんだなと思いました。
そして、豪勢な会席料理に舌鼓を打った私たちは、各々部屋に戻って自由に過ごすことになったのだ。
萌黄さんと皇さんは、このまま二人で大浴場に向かうみたい。三人と別れた私と黒瀬くんは、今日から二日間寝泊まりすることになる部屋に戻ってきた。
「本当に、すごく素敵な部屋だね」
「うん、そうだね」
改めて室内を見渡してみれば、和洋室の客室は温かみの感じられる空間になっていて、二人で使うには十分すぎるくらいの広さになっている。壁には何だか高そうな掛け軸なんかも飾られているし、黒瀬くんが良い部屋を予約してくれていたことが伝わってくる。
二人で落ち着いた色合いのカウチソファに腰を下ろせば、シンとした静けさが辺りを包み込んだ。今までがすごく賑やかだったから、音のしなくなった空間に、ほんの少しだけ緊張してしまう。
そんな空気の中で口火を切ったのは、黒瀬くんだった。
「ねぇ、百合子さん。前に俺が言ったこと、覚えてる?」
「え? ……何のこと?」
「温泉。一緒に入ろうって言っただろ?」
――そういえば。この旅館は客室露天風呂付きの部屋があって、私たちが今いるこの部屋が、まさにそうだったっけ。
「……そんなことも、言ってたような?」
「じゃあ、早速一緒に入ろっか」
「……え、今から!?」
「うん、今から」
立ち上がった黒瀬くんは着替えやらを準備し始めているけど、対する私は中々動き出せない。
――だって、お風呂ってことは、つまり、その……黒瀬くんの前で裸になるってことで……。この歳にもなって恥ずかしいけど、年齢=彼氏いない歴だった私は、恋人と一緒にお風呂に入るだなんて経験があるわけもないのだ。普通に恥ずかしさが勝ってしまう。
「百合子さん、早く。あ、俺が着替えとか準備してあげようか?」
「だ、大丈夫! 自分でするから!」
「そう? ……脱がす方のお手伝いも、百合子さん限定でいつでも受け付けてるから、必要だったら声掛けてね」
ニッと笑った黒瀬くんの顔が、何だか意地悪に見える。してやられた感があるけど……せっかくの旅行だし、多少の恥ずかしさは我慢することにしよう。
腹をくくった私は、黒瀬くんには先に行ってもらって、心を落ち着かせるためにあえてゆっくりと入浴の準備をしてから、外の露天風呂に続くスライドの扉をそっと開いた。
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