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小花衣いろは

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ラブラブ初旅行計画の行方は?

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 外観からだけでも格式高く洗練された美しさが感じられる旅館は、小さな門を潜って一歩足を踏み入れれば、肌に触れる空気が一瞬で変わるのが分かった。暖色系の灯りに包まれた広いロビーに、カウンターに飾られた綺麗な生け花。
 京都にやってきたのだという実感がわいてきて、高揚感にワクワクと胸が弾みだす。

「百合子さん、目がキラキラしてる」

 そんな私の心の内に直ぐに気づいたらしい黒瀬くんには可笑しそうに笑われてしまったけど、今はそれも気にならないくらいにテンションが上がっている。

「だって、こんな素敵な旅館に泊まれる機会なんて中々ないから……!」
「それじゃあ一緒に、楽しい思い出をたくさん作らなくちゃね」
「うん、そうだね。ご飯も温泉も楽しみだし……黒瀬くんの浴衣姿が見れるのも、楽しみだな」
「そんなの俺もだよ。百合子さんの浴衣姿なんて、想像するだけでもめちゃくちゃ可愛いから。浴衣コンテストがあったら、絶対宇宙で一番になれるよ」
「ふふ、まさかの宇宙規模の浴衣コンテストなの?」

 他愛のない雑談で笑い合っていれば、出迎えてくれた着物姿の女中さんに、微笑ましそうなまなざしを向けられていることに気づく。

「ようこそおこしやす。……ふふ、お二人があまりにも可愛らしくて、つい見入ってしまいましたわぁ。存分に寛いでいってくださいね」

 私たちの荷物を受け取ってくれた女中さんは、嫋やかな笑みを湛えたまま、綺麗な一礼をして去っていった。

「私たちって、何て言うか、その……バカップルっぽく見えてたりするのかな?」
「めちゃくちゃ見えてるわよ」

 恐る恐る口にしてみれば、間髪入れずに美代さんから肯定のお言葉を頂いてしまった。

 ……やっぱりそうなんだ。どうしよう、全然自覚がなかった分、今になってちょっと恥ずかしくなってきた。

 だけど黒瀬くんは、恥じらいや照れといった感情など微動も感じてはいない様子だ。むしろ照れる私を見て、くすりと余裕たっぷりの笑みを漏らしている。

「いいじゃん、バカップル上等だよ。別に俺は人の目なんて気にならないしね。むしろもっと百合子さんとイチャイチャしたい。足りないくらいだよ」
「だから私たちもいること忘れるなって言ってんのよ」

 甘い笑みを浮かべて私の頬に手を伸ばしてきた黒瀬くん。けれどその手は、美代さんの鋭い突っ込みと共に、宙で手刀を落とされて沈んでいった。

「あはは、美代さんってば……自分が皇さんに素直になれないからって僻まないでよ」
「はぁ? 私は優しいから、教えてあげてるのよ。しつこい男は嫌われるって知らないの?」

 最早もはや恒例となっている黒瀬くんと美代さんの言い合いが勃発しそうになったけれど、チェックインの手続きを済ませていた皇さん達が戻ってきてくれたことで事なきを得た。

 そして――ロビーで荷物を預け終えた私たちは、旅館の最寄り駅から電車に三十分程揺られて京都河原町駅で下車し、そこから数分歩いて祇園四条までやってきた。
 少し遅くなってしまったけれど昼食を摂ろうという話になり、私と黒瀬くんで行こうと思っていたお店に皆で向かうことになったのだ。

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