逃げられるものならお好きにどうぞ。

小花衣いろは

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ヤンチャと策士は紙一重?

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「ここで会ったのも何かの縁だ。あん時の恨み、今返してやるよ。……オマエも、女の前で大恥かけばいいんだ。おいオマエら、ちょっと手伝え!」
「ははっ、タカシのやつめっちゃキレてんじゃん」
「ま、暇つぶしにはちょうどいいんじゃね?」

 鼻ピアスくんの合図で、後ろに控えていた他の男の子たちが、ギャハハと下卑た笑い声を響かせながら近づいてくる。少しだけ怖くなって黒瀬くんと繋がったままの左手に力をこめれば、同じように握り返された。だけどその手は直ぐに離れてしまう。

「百合子さん、巻き込んでごめんね。……ちょっとだけ待っててくれる?」

 自分が着ていたコートを脱いだ黒瀬くんは、それを私に羽織らせて、フードまで被せてきた。

「そのまま下、向いててね」

 そう耳元で囁いて、私の頭をぽんと撫でる。

「チッ、女の前だからってカッコつけやがって……!」
「はいはい。いいから早くしてくれる?」
「っ、オマエら、やっちまえ!」

 黒瀬くんの挑発めいた言葉を合図に、小さな乱闘が始まってしまったようだ。
 黒瀬くんが喧嘩がとても強いことは、実際にこの目で見たことがあるから知っているけど……それでも、複数人を相手にして無傷で済むのだろうかと、やっぱり心配になってしまう。

 そして、それから騒ぎが収まるまで、多分一分もかからなかっただろう。

 近づいてくる足音にそっと顔を持ち上げれば、いつもと変わらない綺麗な笑顔を浮かべた黒瀬くんと――その背後には、死屍累々という言葉がしっくりきそうな、折り重なるようにして倒れこんでいる男の子たちの姿があった。

「……あの男の子たち、死んでないよね?」
「ふっ。それ、初めて会った日にも言ってたよね。死んでたら俺、捕まっちゃうからさ」

 クスクスと微かな笑い声を響かせて、黒瀬くんは私の空いている左手を攫っていく。

「……ねぇ黒瀬くん、大丈夫?」
「ん? ……あぁ、手は使ってないから、汚れてないよ」
「ち、違うから! 私が聞きたいのは怪我してないかってことで……って、え? 手を使わないでって……それじゃあどうやって喧嘩したの?」
「どうやってって……この足で?」

 そう言って、ショートブーツを履いている片足を軽く上げて見せてくれる。

 ――まさか複数人を相手に、足だけを使って勝ってしまったなんて。信じられない。

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