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全部全部、君だから。理由はそれだけで十分で。
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しおりを挟む「百合子さん? もしかして、寝ちゃった? ……おやすみ」
そのまま眠ってしまった私を、黒瀬くんはベッドまで運んでくれた。そして隣で寄り添うようにしてベッドの海に沈んだ黒瀬くんは、私を抱きしめたまま眠りについていた。
――翌朝。カーテンの隙間から漏れてくる陽光で、私は目を覚ました。
そのまま泊まっていたと思っていた黒瀬くんは、私が目を覚ました時には姿を消していた。もう帰ってしまったのだろうと少しだけ寂しく感じていれば、それから二十分ほどして、黒瀬くんは再び家を訪ねてきた。――その手に、私が好きなカフェのロゴが入った紙袋を持って。
「百合子さん、ホワイトデーはいらないって言ってたけど……やっぱり何かしら渡したかったからさ」
そう、黒瀬くんにはいつも貰ってばかりだから、ホワイトデーのお返しはいらないと事前に伝えておいたのだ。
「これなら一緒に食べられるし、いいよね?」
紙袋に入っていた白い箱の中を覗いてみれば、そこには私の好きなケーキやプリンなんかが、所狭しと並べられている。
「……ふふ、これは買ってきすぎじゃない?」
「そう? 百合子さんならぺろっと食べられるでしょ?」
「こんなに食べたら太っちゃう」
「大丈夫、百合子さんは太っても可愛いから」
「……すーぐそういうこと言うんだから」
「だって事実だし」
クスリと微笑んだ黒瀬くんは、「ほら、今日は俺が百合子さんを甘やかす日なんだからさ。百合子さんは座って待っててよ」と私をソファに座らせて、自分はキッチンに向かっていく。
どうやら黒瀬くんが朝食を作ってくれるらしい。……少しだけ心配だけど、今日は黒瀬くんの好意に甘えて、大人しく待っていようかな。
そして、黒瀬くんが作ってくれたほんの少しだけ焦げた目玉焼きとトーストを食べて、一緒にソファに腰掛けながらのんびりお喋りをした。
いつも以上にやたらとくっついてくる黒瀬くんは、私が飲み物を取りに行こうとキッチンに立つ時までそばを離れようとしない。私が理由を問えば、黒瀬くんの言い分は「暫く会えてなかったから、充電させて。百合子さんが足りない」とのことらしい。
少し遅めの昼食は、黒瀬くんが買ってきてくれたケーキをひとまず三個お皿に出して、それぞれを半分こずつにして食べた。
夕方になったら、二人で近くのスーパーに買い物に行って、黒瀬くんの希望で、夕食は一緒にオムライスを作ることになった。卵と鶏肉に、晩酌用の缶チューハイとビールを買って帰る。
その頃には前日までの仕事の疲れなんてすっかり吹き飛んでいて、私は胸に広がる多幸感に頬を緩めていた。
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