86 / 134
全部全部、君だから。理由はそれだけで十分で。
6
しおりを挟む「百合子さん? もしかして、寝ちゃった? ……おやすみ」
そのまま眠ってしまった私を、黒瀬くんはベッドまで運んでくれた。そして隣で寄り添うようにしてベッドの海に沈んだ黒瀬くんは、私を抱きしめたまま眠りについていた。
――翌朝。カーテンの隙間から漏れてくる陽光で、私は目を覚ました。
そのまま泊まっていたと思っていた黒瀬くんは、私が目を覚ました時には姿を消していた。もう帰ってしまったのだろうと少しだけ寂しく感じていれば、それから二十分ほどして、黒瀬くんは再び家を訪ねてきた。――その手に、私が好きなカフェのロゴが入った紙袋を持って。
「百合子さん、ホワイトデーはいらないって言ってたけど……やっぱり何かしら渡したかったからさ」
そう、黒瀬くんにはいつも貰ってばかりだから、ホワイトデーのお返しはいらないと事前に伝えておいたのだ。
「これなら一緒に食べられるし、いいよね?」
紙袋に入っていた白い箱の中を覗いてみれば、そこには私の好きなケーキやプリンなんかが、所狭しと並べられている。
「……ふふ、これは買ってきすぎじゃない?」
「そう? 百合子さんならぺろっと食べられるでしょ?」
「こんなに食べたら太っちゃう」
「大丈夫、百合子さんは太っても可愛いから」
「……すーぐそういうこと言うんだから」
「だって事実だし」
クスリと微笑んだ黒瀬くんは、「ほら、今日は俺が百合子さんを甘やかす日なんだからさ。百合子さんは座って待っててよ」と私をソファに座らせて、自分はキッチンに向かっていく。
どうやら黒瀬くんが朝食を作ってくれるらしい。……少しだけ心配だけど、今日は黒瀬くんの好意に甘えて、大人しく待っていようかな。
そして、黒瀬くんが作ってくれたほんの少しだけ焦げた目玉焼きとトーストを食べて、一緒にソファに腰掛けながらのんびりお喋りをした。
いつも以上にやたらとくっついてくる黒瀬くんは、私が飲み物を取りに行こうとキッチンに立つ時までそばを離れようとしない。私が理由を問えば、黒瀬くんの言い分は「暫く会えてなかったから、充電させて。百合子さんが足りない」とのことらしい。
少し遅めの昼食は、黒瀬くんが買ってきてくれたケーキをひとまず三個お皿に出して、それぞれを半分こずつにして食べた。
夕方になったら、二人で近くのスーパーに買い物に行って、黒瀬くんの希望で、夕食は一緒にオムライスを作ることになった。卵と鶏肉に、晩酌用の缶チューハイとビールを買って帰る。
その頃には前日までの仕事の疲れなんてすっかり吹き飛んでいて、私は胸に広がる多幸感に頬を緩めていた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。

「気になる人」
愛理
恋愛
人生初の出勤日に偶然に見かけた笑顔が素敵な男性……でも、それだけだと思っていた主人公の職場にそのだ男性が現れる。だけど、さっき見た人物とは到底同じ人物とは思えなくて……。
素直で明るく純粋な性格の新米女性会社員とその女性の職場の先輩にあたるクールな性格の男性との恋の物語です。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。
汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。
書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。
―――――――――――――――――――
ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。
傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。
―――なのに!
その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!?
恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆
「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」
*・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・*
▶Attention
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる