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全部全部、君だから。理由はそれだけで十分で。
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しおりを挟む「それじゃあ香月さん、今日は本当に、本っっ当に、ありがとうございました……! このご恩は一生忘れません! また日を改めてお礼をさせていただきますので…「あ~もう、そんなに何度も言わなくて大丈夫だから! とりあえず係長にメールで資料も確認してもらえたわけだし、明日は休みなんだから、ゆっくり身体を休めてね」
「っ、はい……! お疲れさまでした!」
それは綺麗な直角九十度のお辞儀を披露してくれた佐々木ちゃんは、その後も何度かペコペコ頭を下げてから、やっと帰路についた。その背を見送り、私も帰ろうと職場に背を向けて歩みを進める。
黒瀬くんには行けそうならバーの方に顔を出すね、と伝えてあるけど、確か黒瀬くん、今日は二十時くらいで上がりだって言ってた気がするから……さすがにもう帰ってるかな。
私も今日は疲れたし真っ直ぐ家に帰ることに決めて、ぼんやりとした街灯と月明かりに照らされた夜道を、いつもより気持ち足早に進む。
アパートに着いたのは、もう直ぐで二十三時を回りそうな時間だった。最近は残業続きだったけど、明日は丸一日休みだし、久しぶりに睡眠を貪ろう。
重たい脚を引きずって玄関扉を目指していれば――玄関前に、誰かが座りこんでいることに気づいた。
――えっ、誰? まさか酔っぱらい……?
疲労で目がかすんで、もしかして帰る家を間違えてしまったのかとも思ったけど、そんなことがあるはずもなく。目を擦ってみても、あそこは私の部屋で間違いないと確信をもって言える。……えっ、不審人物だったらどうしよう。
スマホを取り出していつでも連絡ができるように準備してから、忍び足で人影に近づいてみる。
「……黒瀬くん?」
近づいてその顔を確認してみれば、そこにいたのは黒瀬くんだった。真っ黒なダッフルコートを着て、玄関前でしゃがみこんでいる。
「……百合子さん、やっと帰ってきた。おかえり。それにお疲れ様」
顔を持ち上げた黒瀬くんの鼻先は、薄っすら赤く染まっている。つい数日前に三月に入ったとはいえ、まだまだ夜は冷え込んでいるのだ。
「っ、何で黒瀬くんが此処に!? というか、いつからいたの……!?」
その頬に触れれば、予想通りと言うべきか、やっぱりその身体は冷え切っているようで。その腕を掴んで部屋に招き入れ、暖房の設定温度を三十度まで上げて、寝室から持ってきた毛布を有無を言わせずに黒瀬くんに巻き付けた。
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