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全部全部、君だから。理由はそれだけで十分で。
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しおりを挟む「ねぇ、例の彼氏くんとは上手くいってるの?」
トマトクリームのパスタをフォークにクルクル巻きつけながらも、三奈の視線は器用にもまっすぐ私に向けられている。今は昼休憩中で、二人で昼食をとっているところだ。
瞳を輝かせている彼女は、自分が話すことはもちろん、人の恋愛話を聞くことも好きなのだ。パスタを巻き付けたフォークはそのままに、期待に満ちたまなざしで私の答えを待っている。
「うん、まぁ。……というか、やっぱりパスタも美味しそうだね。次は私もパスタにしようかなぁ」
私はきのこのクリームパスタと迷って、最終的にはオムライスを注文した。だけどやっぱり、パスタも美味しそうだ。艶々のオレンジ色のソースに目を奪われる。
そんな私の返答に、何故か三奈は不満そうに頬をふくらませている。
「もう、それだけ? もっと何かないの?」
「何かって?」
「何かって、惚気よ惚気! 普段は優しい彼も、夜のベッドの上ではもう凄くてぇ、とか!」
「ぐふっ、ちょ、ちょっと三奈、声が大きい!」
思わず飲んでいたアイス珈琲を噴き出しそうになった。咄嗟におしぼりを口許にあてて拭いながらジト目を向けるけど、三奈は私の視線なんて然して気にしていない様子で笑っている。
「……此処、一応職場に併設されてるカフェだってこと、分かってるよね?」
「もちろん知ってるわよ」
「それじゃあもう少し声、抑えて! 周りで誰が聞いてるかわからないんだからね……!」
「もう、百合子ってば相変わらず奥手ねぇ。それに、誰も私たちの会話なんて気にしてないから大丈夫よ」
三奈のサバサバした性格は好意的に思っているけど、こういう何でもかんでもオープンなところは、実はほんのちょっとだけ苦手だ。三奈の言う通り奥手な私からしたら、いつだって羞恥心や周囲の目が気になる気持ちが勝ってしまうから。
「……そういう三奈はどうなの?」
「私?」
「例の彼氏さんとは、上手くいってるんでしょ?」
三奈にされた質問をそのまま返せば、待ってましたと言わんばかりの笑顔でマシンガントークを繰り出す。
「そう、もう聞いてよ! 彼ね、実は結構シャイな人で、普段は素っ気ない時も多いのよ! だけどね、この前なんて私に内緒で、ケーキを用意してくれてたの!」
「三奈、誕生日だったもんね」
「そう! あ、百合子もプレゼントありがとね!」
「いえいえ」
「それでね、そのケーキなんだけど、サプライズだって言って部屋の飾りつけとかもしてくれてたのよ? しかも料理も手作りで! もうめちゃくちゃかわいくない? 母性っていうの? 何かこう、愛しい気持ちがあふれちゃって……! あっ、それにこの前なんてね――」
三奈の惚気話に相槌を打ちつつ、適温に冷めたオムライスを頬張っていれば、私の後輩にあたる佐々木ちゃんがこちらに駆けてくる姿が目に入ってきた。
彼女は派遣社員の子で、二か月という期間付きで、つい最近ウチの部署に入ってきたばかりだ。デスクが隣同士なこともあって、業務の合間に雑談を繰り広げることもある。とてもいい子であることには違いないんだけど……。
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