逃げられるものならお好きにどうぞ。

小花衣いろは

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ショッピングと贈り物

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「え、これって……」
「今日、付き合ってちょうど一か月記念だからさ。これ、百合子さんにプレゼント」

 花束の向こう側からひょっこり顔を出した黒瀬くん。その手には見慣れたケーキ屋の袋もぶら下がっている。

「薔薇の花束とか、ちょっとベタかなとも思ったんだけど……実際に見たらすごく綺麗だったから、百合子さんにプレゼントしたくて。あとケーキも買ってきたから、一緒に食べよ」

 黒瀬くんはにこにこと嬉しそうだ。対する私は、驚きで固まったまま。

「百合子さん?」
「……ごめん、黒瀬くん。びっくりして……」
「喜んでもらえた?」
「……うん。すっごく、すっごく、……嬉しい」
「……そっか。ならよかった」

 黒瀬くんは安心したように笑うと、持っていた花束を脇のコンソールテーブルに置いて、ふわりと包み込むように抱きしめてくれる。

「ねぇ百合子さん。これからもずっと、俺と一緒にいてくれる?」
「……うん」

 私の返答に満足そうに、幸せそうに笑った黒瀬くんに、そっと口づけられる。

「やっぱり百合子さんって、結構泣き虫だよね。泣き顔、久しぶりに見た」

 黒瀬くんに言われて、気づけば涙を流していることに気づいた。嬉しくて泣くなんていつ以来だろうか。ちょっと恥ずかしい。

「ほ、ほんとに嬉しくて……ごめんね。私、何も用意できてなくて……」
「そんなのいいよ。俺がしたくて勝手にしたことだし。百合子さんに喜んでもらえたなら、それで十分」
「……黒瀬くん、イケメン過ぎてムカつく」
「あはは、それ誉め言葉?」
「でも……そんなところも全部、だいすき」
「……うん。俺も百合子さんの全部が、大好き」

 黒瀬くんは口許が緩むのを隠すように、唇を一度ぎゅっと結んで、だけど直ぐにそれを緩めて、はにかむように笑う。
 私は黒瀬くんのこの表情が好きだ。幸せを煮詰めたような、甘酸っぱくて柔らかな表情。それはいつも私の胸をぎゅっと締め付けて、堪らない気持ちにさせる。

 ――黒瀬くんの笑う顔を、これからも隣で、たくさん見ることができたらいいな。

 そんなささやかな願いを込めて、抱きつく腕にそっと力を込めた。

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