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ショッピングと贈り物
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しおりを挟むあの後、フードコートで遅めのランチを済ませてから、美代さんと皇さんとは現地で解散した。私は今、黒瀬くんと二人きりで帰路についている。時刻はまだ十八時前だけど、この時期は陽が沈むのが早いから、辺りはすでに真っ暗だ。
「それにしても、今日は本当にびっくりしたよ……まさか美代さんが男の人だったなんて」
「そんなに驚いた?」
「うん。だって美代さん、すごく綺麗だし……どう見ても綺麗なお姉さんにしか見えなくて」
事実を知った今でも、まだ信じられないくらいだ。
「そう? 俺には百合子さんの方がずっと綺麗なお姉さんに見えるけど」
「……はいはい。……ありがとうゴザイマス」
「ふっ……はい、どういたしまして」
ふっと息を漏らすように静かに笑っている黒瀬くんの頬を軽くつねってやれば、黒瀬くんの冷たい手に鼻先を軽く摘ままれるという仕返しをされた。最近では慣れてきたこんなスキンシップが密かに楽しくて、小さな幸せを感じてしまう。
「あ、それと、前に美代さんが色々言ってたと思うけど……あれも全部嘘だからね。美代さんの家に世話になってたことはあるけど、お互いに恋愛感情は一切なかったし」
「そうなの? それじゃあ、元カノっていうのも……」
「嘘だよ」
「……ふーん、そっか」
「……もしかして、信じてない?」
上体を倒して私の顔を下から覗き込んできた黒瀬くんは、心の内を見透かすようにジッと見つめてくる。
「いや、信じてないとか、そういうわけじゃないけど……」
「じゃないけど?」
「……一緒に住んでたのは本当なんだなぁって思っただけ」
「……もしかして、妬いてる?」
「……妬いてない」
「……ふーん」
妬いてないって言ってるのに、口許を緩めた黒瀬くんは意地の悪いまなざしを向けてくる。
「……ほんのちょっとだけなら、妬いた……かも」
黒瀬くんの視線から逃れるように下を見ながら小さな声で本音を零せば、黒瀬くんは今度こそ隠すことなく、クスクスと笑い声を漏らした。
「そっか、嬉しいよ。でも……前にも言ったけど、もう百合子さん以外の女の人の家で世話になることなんてないから。百合子さんを不安にさせるようなことは絶対にしないから……それは信じてほしい」
「……うん。信じるよ」
「……ありがとう」
私を安心させるように優しい笑みを浮かべた黒瀬くんは、腕時計に視線を落として時刻を確認する。
「ねぇ。一旦家に帰ってから、また後で百合子さんの家に行ってもいい?」
「いいけど……そのまま寄って行かないの?」
「うん。ちょっと忘れ物」
そう言った黒瀬くんは、私を家まで送り届けてくれると、家には上がらず自宅に戻ってしまった。……忘れ物って何だろう? そう思いながらも家で夕食の準備をしていれば、インターホンの音が鳴り、来客を知らせてくれる。
「黒瀬くん。どうぞ上がっ、て……」
玄関扉を開けて真っ先に目に飛び込んできたのは、真っ赤な薔薇の花束だった。
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