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ショッピングと贈り物
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しおりを挟む「……百合子さんはこっちでしょ」
美代さんから解放された黒瀬くんに、左手を引かれる。――けれどその左手は、美代さんによってすぐに離れていった。私の空いていた右手を美代さんに繋がれて、そのまま連行されたからだ。
「百合子ちゃん、きて!」
「ちょっと美代さん、今俺が百合子さんと…「椿は黙ってて!」
そのまま男性二人から距離を置いた場所まで引っ張られたかと思えば、何故か小声の美代さんに、耳を貸すように言われる。
「……百合子ちゃん、私が言いたいことは分かってるわよね?」
「えぇっと……はい。何となくは」
「まさか慎二さんがきてくれるだなんて思ってなかったから気が動転しちゃったけど……というか、事前に知ってたら念入りにスキンケアして、メイクだってもっと気合入れてきたのに椿の奴……! とにかく、これはチャンスなのよ。百合子ちゃん、協力してくれるわよね?」
真剣な表情をした美代さんが、グイっと顔を近づけてくる。
「は、はい。それは勿論いいですけど……協力って、具体的には何をすればいいですか? ……そうだ、私と黒瀬くんでこっそり抜け出しましょうか?」
「そ、それはダメよ! 話が持たなくなったら困るじゃない!」
美代さんは必至の形相で首を横に振る。
「えぇっと、それじゃあ……あ、そうだ」
私は目に留まった一角のコーナーを見て、一つの案を思いついた。それを美代さんに説明して、離れた場所で待っていた男性二人のもとへと戻る。
「百合子さん、おかえり。はい」
黒瀬くんが、にっこり笑顔で手を差し出してくる。その手にそっと掌を置けば、満足そうにぎゅっと握られた。
「次はどこに行くんだ?」
皇さんの言葉に、私と美代さんは目を合わせた。作戦を実行するために、一つの提案をする。
「あの、よければゲームセンターとか行ってみませんか?」
「ゲームセンター? 別に構わないが……意外だな」
「意外?」
「嬢ちゃんが、ああいう場所が好きなことがだ」
別にゲームセンターが好きだというわけではないのだけど……それを否定して作戦を実行できなくなっても困るので、曖昧に笑みだけ返しておいた。
黒瀬くんもあっさり了承してくれたので、四人で直ぐそばにあるゲームセンターに向かう。
「百合子さん、何か欲しいものがあれば言ってね。俺がとってあげるよ」
「ありがとう、黒瀬くん」
ガヤガヤと賑やかな音でごちゃついているゲームセンター内を歩きながら、お目当てのものを探す。
「(んー、どれがいいかなぁ……あ、あれとか良さそう)」
美代さんとアイコンタクトをとって、物珍しそうに辺りを見渡す男性二人に声を掛ける。
「あの、エアホッケーしませんか?」
「エアホッケー?」
私の唐突な提案に、黒瀬くんがコテンと首を傾げる。皇さんもホッケー台を興味深そうに見ながら不思議そうな表情をしているのが分かる。
――何故私がゲームセンターに行くことを選択したのか。何故ならこういう勝負事で男女間の仲が深まることがあるのだと、聞いたことがあるからだ。ちなみに情報提供者は、学生時代に男女数名でボーリングに行った際にはかなり盛り上がり、その後付き合う子もいたのだと教えてくれた三奈である。
「いいじゃん。俺、百合子さんと同じチームね」
黒瀬くんは私の思惑に気づいてくれたのか、私とペアを組みたいと言ってくれた(ただ単に、椿が百合子とペアを組みたいという気持ちが九割を占めていたのだが)ため、私もそれに頷いて返す。
「あの、それじゃあ美代さんと皇さんがペアってことでいいですか?」
「あぁ、俺は構わねぇぜ」
「……わ、私も別に、構わないけど」
美代さんは少しだけどもりながらも、了承の言葉を返している。美代さん頑張れ、と心の中でエールを送りながら、私たちは二人ずつに分かれてホッケー台の前に立った。
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