逃げられるものならお好きにどうぞ。

小花衣いろは

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ショッピングと贈り物

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 バーで美代さんと黒瀬くんと買い物に行く約束をしてから、早数日。
 とうとう週末がやってきた。

 待ち合わせ場所であるショッピングモールの最寄駅に向かえば、そこにはすでに黒瀬くんと美代さんの姿があった。だけどそこにもう一人、人陰が見える。――あれは。

「百合子さん、おはよう」
「おはよう、黒瀬くん。ねぇ、あの人って……」

 私の到着にいち早く気づいた黒瀬くんが駆け寄ってきた。私の視線の先に気づいたようで「あぁ」と頷く。

「皇さんは俺が呼んだんだよ。ちょうど予定も入ってないって言ってたし、どうせなら本人に直接好みを聞いた方が早いと思って」

 浮かんだ疑問は、黒瀬くんによってすぐに払拭された。美代さんと皇さんのもとに歩み寄れば、私の存在を目に留めた皇さんが、その瞳をほんの僅かに見開く。

「アンタは、この間の……」
「あの、この間は色々とご迷惑をお掛けしました。改めまして、香月百合子といいます」

 頭を下げれば、皇さんは「そんなに畏まらなくていい」と私に顔を上げるよう促した。

「前にも言った通り、嬢ちゃんの話は椿から聞いてたんだ。挨拶が遅れちまったが、俺は皇慎二。皇組の若頭をやってる。今日はこいつらの我儘に付き合わせちまってワリィな」

 皇さんは申し訳なさそうな顔をして黒瀬くんと美代さんに視線を送る。

「いえ、今回の買い物は私が提案したことなので。今日はよろしくお願いします」
「あぁ」

 皇さんと話していれば、いつの間にか先を進んでいた美代さんに呼ばれる。

「ちょっと百合子ちゃん、早く行きましょ!」
「あ、はい!」

 駆け寄って隣を歩く美代さんを見れば……あれ? 何だか表情が強張っているような……。

「美代さん、もしかして……緊張してるんですか?」
「きっ、…緊張なんてしてるわけないでしょ!」

 美代さんはくわっと威嚇するように私を見据えて、けれど直ぐ後ろに皇さんが歩み寄ってきていることに気づけば、すごすごとその勢いを弱めてしおらしい態度で歩き始める。
 初めて見る美代さんの乙女な姿にほんわかしながら、四人で大型のショッピングモールに向かった。軒を連ねるモール内を順に見て回りながら、気になった店があれば足を止めて試着したりする。

「ねぇ、これとかどう? 可愛いと思わない?」

 美代さんが、オフホワイトのシフォンブラウスを自身の身体にあてがって問いかけている。――黒瀬くんに。

 美代さんは何故か先ほどから、黒瀬くんの腕にべったりとくっついたままなのだ。

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