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束縛が強いのはお互い様
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しおりを挟む「皇さん。百合子さんで遊ばないでもらえます?」
「あぁ、ワリィな」
「えっ、と……?」
「あぁ、嬢ちゃんは何か勘違いしてるみてぇだが……俺は椿に、嬢ちゃんから身を引け、だなんて言った覚えはねぇよ」
「……え?」
「そもそもコイツは、俺が何言ったって嬢ちゃんから離れやしねーだろ」
「うん、当然だよね」
男性の呆れを孕んだようなまなざしに、黒瀬くんはにこりと笑いながら私の肩に手を回す。
「……えっと、どういうことですか?」
未だに理解できず困惑していれば、黒瀬くんが分かりやすく、かつ端的に、今の状況を説明してくれる。
「百合子さん、騙されたんだよ。あいつは人を揶揄うことが趣味だからね。――で、今のは皇さんには揶揄われていただけってこと」
「……で、でも黒瀬くん、仕事が忙しくてしばらく会えないって言ってたよね? あれは?」
「あぁ、そのことか。百合子さんも見てたと思うけど、俺の今回の仕事は、さっきの奴らをあぶりだすことだったんだ。でも中々尻尾を出さなくてさ。こいつらには俺の顔も割れてたし、一緒にいると百合子さんにまで危害が及ぶかもって思ったから、しばらく距離を置こうって思ってたんだけど……まぁ、こいつらが下手な罠に引っかかってくれたおかげで一掃できちゃったから、その必要はなくなったんだけどね」
地面に伏した男たちを一瞥した黒瀬くんは、次いで目の前の男性――黒瀬くんは皇さんと呼んでいた――を見て、「そうだよね?」と確認をとるように問いかける。
「あぁ、そうだな。……にしてもオマエなぁ……いい加減、ちっとは手加減ってもんを覚えろ。コイツら死んでねーだろうな」
「まさか。さすがにそんなへましないよ」
カラリと笑う黒瀬くんに、皇さんは痛そうに頭を押さえながら「……とりあえずコイツらの後始末をしねぇとな。椿は嬢ちゃんと先に帰っていい」と何処かに向かっていった。
というか――つまりは全部、私の早とちりだったってことだよね。
「……恥ずかしい……」
私が勝手に勘違いして、一人で暴走してしまっただけだったんだ。そもそものすべての元凶は、萌黄さんでもあると思うんだけど……話を鵜吞みにして突っ走る前に、黒瀬くんに電話の一本でも入れて確認すればよかった。
項垂れる私に気づいた黒瀬くんが、腰を折って私の頭を撫でる。
「……ごめんね。勝手に勘違いして、馬鹿とか、ひどいこと言って」
恥ずかしくて顔を上げたくないところだけど、それをグッと押しとどめながら黒瀬くんの目を見て謝罪する。黒瀬くんは「そんなの気にしなくていいよ」と緩やかに微笑んだ。
「むしろ俺、嬉しかったよ。百合子さんが俺を心配して此処まできてくれたこともそうだし、皇さんに啖呵を切る百合子さん、めちゃくちゃ格好良かった。――ますます惚れ直したよ」
そう言って、私の額にそっと口づけた。
「ま、あいつには……後でよーく言い聞かせておくからさ」
黒瀬くんが言う“あいつ”とは、多分萌黄さんのことだろう。黒い笑みを浮かべる黒瀬くんを見て萌黄さんの未来を悟ってしまった私は、彼の顔を思い浮かべて、心の中で合掌しておいた。
――こうして“しばらく会えない期間”はたったの一日もかからずに終わりを告げ、翌日、いつものように職場に迎えにきてくれた黒瀬くんの姿が見られたのだった。
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