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束縛が強いのはお互い様

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「……っ、黒瀬くんのバカ! いつもいつも……黒瀬くんは、自分勝手過ぎるよ」
「……うん」
「黒瀬くんが怪我したらどうしようって……すごく、怖かった」
「心配かけて……不安にさせて、ごめんね」

 黒瀬くんの顔をよく見れば、口の端が切れて血が滲んでいる。持っていたハンカチで口許をそっと拭おうとすれば「汚れるから」と黒瀬くんに止められるけど、制止を振り払って口許にハンカチをあてがう。

「……私だって、逃がすつもりはないんだからね」

 黒瀬くんの襟元を引いて、少しだけかさついている唇にキスをする。顔を離せば、黒瀬くんは目を丸くして、ポカンと呆けた顔をしていた。
 珍しい表情に、泣いているのも忘れてクスリと笑ってしまえば、黒瀬くんは自身の唇に触れた。そして――私の言葉の意味を理解したのか、嬉しそうに目を細めて微笑む。

「……うん。俺はずっと、百合子さんだけのものだから」

 黒瀬くんの大きな手が、私の頬に触れる。顔を持ち上げられれば近づいてくる気配を感じて、私はそっと瞼を下ろした。


「――おい、椿。お楽しみのところ悪いが、まずはこっちを片付けてからにしろよ」

 鼓膜の奥の方まで響いてきそうな、重たくて低い声。慌てて黒瀬くんから距離をとる。声が聞えた方に顔を向ければ、声の持ち主は、黒瀬くんが伸した男たちのかたわらに立っていた。

 暗くてよく見えないけど、黒っぽいスーツを着ていて、細身ながらもがっしりした体つきをしている。多分、初めて会う人だ。黒瀬くんの仕事関係の人なのだろうと考えながら様子を窺っていれば、相手もこちらに視線を寄越した。視線がパチリと交錯する。
 無視するのも変かと思い会釈すれば、男性は煙草を持っている片手を挙げて、ひらりと振り返してくれた。

「百合子さん、ちょっとだけ待っててくれる?」
「うん」

 黒瀬くんはスーツを着た男性のもとに向かっていく。そして二言三言話したかと思えば、こちらに戻ってきた。――スーツを着た男性を連れて。

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