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束縛が強いのはお互い様
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しおりを挟む黒瀬くんの様子に違和感を覚えた翌日。
私は早速、仕事帰りに彼が働くバーに顔を出していた。
出迎えてくれたマスターに新年の挨拶をしてから、店内を見渡して黒瀬くんの姿を探す。
「あの、黒瀬くん、今は奥にいるんですか?」
「ん? 椿は休みだよ」
「え、休み?」
「ああ。何でも、しばらく立て込みそうとか何とかで、当分の間休ませてほしいって。長期休暇をとってるんだが……香月さん、聞いてないかい?」
「……はい」
てっきりバーでの仕事のことを言っているのだと思っていたけど――“副業”の方で忙しいということだったのだろう。
黒瀬くんは、副業に関することを話したがらない。私も無理に詮索するのはよくないと思って、誰にだって人に言いたくないことの一つや二つあるのだからと、敢えて訊ねるようなことはしてこなかったけれど――どうしてだろう。何だか、胸騒ぎがする。
こんな風に不安になるくらいなら、躊躇なんてしないで、副業のことについて聞いておけばよかったと思う。聞いたところで、はぐらかされるだけだったかもしれないけど、それでも……。
「ヤッホー、お姉さん」
考え込んでいれば、聞いたことのある声に呼びかけられた。
名前は確か――佐藤さん、は偽名だったはずだから――そうだ、思い出した。萌黄さんだ。長い黒髪を今日は後ろの方でお団子にしていて、黒縁の眼鏡をかけている。
今日は黒瀬くんも店にはいないし、あまり関わるなと言われていることを思い出す。軽く会釈だけして店を出ようと帰り支度をしていれば、萌黄さんに呼び止められた。
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