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束縛が強いのはお互い様
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しおりを挟む「黒瀬くん、今日も上がっていく?」
「寄っていきたいところだけど……俺、これから仕事なんだ」
「そうなの?」
仕事前なのにわざわざ迎えにきてくれたんだ。家でゆっくり休んでいればよかったのに……なんて言っても、きっと黒瀬くんは、
「少しでも百合子さんに会いたかったから」
――なんて。恋愛ドラマに出てくるヒーロー役が言いそうな気障な台詞を、さらっと返してくれるんだろうなって、聞かなくても分かってしまう。短い付き合いだけど、黒瀬くんが好意をストレートに伝えてくれる人だということは、もう十分というほどに理解しているのだ。
「仕事前なのに、わざわざ迎えにきてくれてありがとう。仕事、頑張ってね」
「そんなの、俺が少しでも百合子さんに会いたかっただけだから」
――ほら、やっぱり。想像と違わぬ台詞をさらりと口にした黒瀬くんに、予想はできていても、私はいつだって普通に照れてしまう。
私の顔を覗き込んでクスリと微笑んだ黒瀬くんは、繋がっていた手を放し、お互いの体温が混ざり合ってすっかり温くなった手で、私の頬をするりと撫でた。
「百合子さん。俺、しばらく仕事の方が忙しいから……中々会いにいけないと思うんだ」
「……そっか。仕事が忙しいならしょうがないよ」
年明けで混雑するのかもしれないし、それは仕方がないことだろう。それに黒瀬くんが忙しいなら、私の方から会いに行けばいい話だ。
「仕事帰り、お店の方に顔出すね」
「……うん、ありがとう。しばらくは迎えにも行けないから、帰り道は十分気をつけて帰ってね」
「うん」
――何だろう。今一瞬、黒瀬くんの表情が強張ったような……戸惑いを隠すかのように瞳が揺らいだような気がしたけど……気のせい、かな。
違和感を感じながらも、微かすぎるその正体に気づけなかった私は、去って行く黒瀬くんの背中をいつものように見送った。
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