逃げられるものならお好きにどうぞ。

小花衣いろは

文字の大きさ
上 下
56 / 134
見せかけのあどけない理性

9

しおりを挟む


「正直俺は、今すぐにでも百合子さんの中にブチ込んでやりたいって思ってるよ」
「……。……は、はあ!? ば、バカしゃないの!?」

 ――今、黒瀬くんは何と言ったんでしょうか。

 幻聴かと思ったけど、私を見下ろすそのまなざしは、誤魔化しも通用しないほどの濃い情欲に濡れている。瞬時に、今の言葉が聞き間違いなんかではないことを悟ってしまった。

「く、黒瀬くん。ちょ、ちょっと、お、落ち着いて……」
「今までは、百合子さんに嫌われたくないから我慢してたけど……俺、前にも言ったよね? めちゃくちゃ重いと思うって。百合子さんのこと大切にしたいけど、同じくらい、俺の手でドロドロに甘やかしてめちゃくちゃにして、俺なしじゃ生きていけないようにしたい。……俺さ、百合子さんの全部が欲しいんだよ」
「……」

 こんなにも恐ろしい口説き文句があっただなんて。聞くに堪えず耳を塞ごうとするが、両手首は黒瀬くんに拘束されたままのため、それは敵わない。黒瀬くんは依然として、感情の読めない瞳で私を見下ろしている。

 ――無理。もう、堪えられない。

 黒瀬くんが急に知らない男の子に見えてきて、恐怖とか羞恥とかぐちゃぐちゃな感情でいっぱいいっぱいになって、叫び出したくなってくる。もはや半泣き状態だけど、黒瀬くんはそんな私の顔を見て、真顔から一変、恍惚とした笑みを携えながら、容赦なく畳みかけてきた。

「さっきの男と百合子さんが一緒にいる姿を見てさ、考えてたんだ。もし、百合子さんがほかの男と恋人同士に、なんてなったりしたら――その時は、相手の男を殺しちゃうかも」
「……」
「……なぁんてね」

 ――……め、目が笑ってないんですけど、黒瀬くん。冗談には全く聞こえない冗談にプルプルと震えながらも、黒瀬くんがやきもちを妬いていたのだということがようやく伝わってきて――怖いはずなのに、それに嬉しさを感じているのも、事実で。

「俺のこと、嫌いになった?」

 黙ったままの私に不安になったのか、眉を下げてしゅんとした表情になった黒瀬くん。鼻が擦れそうなほどの至近距離で見つめられている。

「……もう、嫌いになるなんて無理だよ」

 ――だって私は、黒瀬くんの優しいところ、好きだなって思うところを、たくさん知ってしまった。それに、実際かなり恐怖を感じることも言われてしまったけど……多分黒瀬くんは、私が本気で嫌がることはしないだろうなって。そう思うから。

 私の言葉に嬉しそうに目を細めた黒瀬くんが、そのままぎゅって抱きついてくる。あんな発言を聞いた後だったから、このまま食べられてしまうのではないかと身構えていたのだけど……。

「……ふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。今日は何もしないから。――でも、覚悟はしておいてね」

 そう囁いた黒瀬くんに、強張っていた身体の力を少しだけ抜いた。だけどその直後、衣服の下に手を差し込まれ、お腹をするりと撫でる掌の感触を感じる。

「……あの、黒瀬くん? 今何もしないって言ったよね?」
「ん? これはただのスキンシップだよ。それにこれくらいで恥ずかしがってたら……これから先、何もできないだろ?」
「っ、……」

 そして黒瀬くんに上手いこと言いくるめられた私は、この後、彼に散々遊ばれることになり――スキンシップといえど、恋愛偏差値底辺の私に緊張するなというのはとうてい無理な話なのだと、ことごとく気づかされたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

処理中です...