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見せかけのあどけない理性
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しおりを挟む「正直俺は、今すぐにでも百合子さんの中にブチ込んでやりたいって思ってるよ」
「……。……は、はあ!? ば、バカしゃないの!?」
――今、黒瀬くんは何と言ったんでしょうか。
幻聴かと思ったけど、私を見下ろすそのまなざしは、誤魔化しも通用しないほどの濃い情欲に濡れている。瞬時に、今の言葉が聞き間違いなんかではないことを悟ってしまった。
「く、黒瀬くん。ちょ、ちょっと、お、落ち着いて……」
「今までは、百合子さんに嫌われたくないから我慢してたけど……俺、前にも言ったよね? めちゃくちゃ重いと思うって。百合子さんのこと大切にしたいけど、同じくらい、俺の手でドロドロに甘やかしてめちゃくちゃにして、俺なしじゃ生きていけないようにしたい。……俺さ、百合子さんの全部が欲しいんだよ」
「……」
こんなにも恐ろしい口説き文句があっただなんて。聞くに堪えず耳を塞ごうとするが、両手首は黒瀬くんに拘束されたままのため、それは敵わない。黒瀬くんは依然として、感情の読めない瞳で私を見下ろしている。
――無理。もう、堪えられない。
黒瀬くんが急に知らない男の子に見えてきて、恐怖とか羞恥とかぐちゃぐちゃな感情でいっぱいいっぱいになって、叫び出したくなってくる。もはや半泣き状態だけど、黒瀬くんはそんな私の顔を見て、真顔から一変、恍惚とした笑みを携えながら、容赦なく畳みかけてきた。
「さっきの男と百合子さんが一緒にいる姿を見てさ、考えてたんだ。もし、百合子さんがほかの男と恋人同士に、なんてなったりしたら――その時は、相手の男を殺しちゃうかも」
「……」
「……なぁんてね」
――……め、目が笑ってないんですけど、黒瀬くん。冗談には全く聞こえない冗談にプルプルと震えながらも、黒瀬くんがやきもちを妬いていたのだということがようやく伝わってきて――怖いはずなのに、それに嬉しさを感じているのも、事実で。
「俺のこと、嫌いになった?」
黙ったままの私に不安になったのか、眉を下げてしゅんとした表情になった黒瀬くん。鼻が擦れそうなほどの至近距離で見つめられている。
「……もう、嫌いになるなんて無理だよ」
――だって私は、黒瀬くんの優しいところ、好きだなって思うところを、たくさん知ってしまった。それに、実際かなり恐怖を感じることも言われてしまったけど……多分黒瀬くんは、私が本気で嫌がることはしないだろうなって。そう思うから。
私の言葉に嬉しそうに目を細めた黒瀬くんが、そのままぎゅって抱きついてくる。あんな発言を聞いた後だったから、このまま食べられてしまうのではないかと身構えていたのだけど……。
「……ふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。今日は何もしないから。――でも、覚悟はしておいてね」
そう囁いた黒瀬くんに、強張っていた身体の力を少しだけ抜いた。だけどその直後、衣服の下に手を差し込まれ、お腹をするりと撫でる掌の感触を感じる。
「……あの、黒瀬くん? 今何もしないって言ったよね?」
「ん? これはただのスキンシップだよ。それにこれくらいで恥ずかしがってたら……これから先、何もできないだろ?」
「っ、……」
そして黒瀬くんに上手いこと言いくるめられた私は、この後、彼に散々遊ばれることになり――スキンシップといえど、恋愛偏差値底辺の私に緊張するなというのはとうてい無理な話なのだと、ことごとく気づかされたのだった。
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