逃げられるものならお好きにどうぞ。

小花衣いろは

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見せかけのあどけない理性

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 今日は一月一日。元旦だ。街中はお正月ムード一色で、大勢の人で賑わっている。
 わざわざ年明け直ぐのこのタイミングで飲み会をしなくてもよかったんじゃないのか、とは思うけど、それを今更言ったところでどうにもならないのだから、仕方がない。

 駅から徒歩五分のところにある居酒屋に足を踏み入れる。店員に幹事の名前を告げれば、奥の座敷席に通された。

「あ、百合子―! 待ってたわよ」

 私がきたことに真っ先に気づいた三奈が、手招きしてくれる。隣の席を確保しておいてくれたみたいだ。

「ごめんごめん、家を出る前にちょっとトラブルがあって」
「トラブルって何よ? ……あ、もしかして、例の彼氏くんに引き止められたとか?」
「んー…、まぁ……」
「ふふ、やっぱりそうなんだ。く~、新年早々惚気ちゃってまぁ! ご馳走様!」

 まだ飲み会は始まったばかりだというのに、三奈は既に出来上がっているかのようなテンションだ。
 つい先日二人きりで忘年会をした際に、ようやく黒瀬くんという彼氏の存在を話したばかりだから、こういった色恋話が大好きな三奈がこのノリになっているのも仕方のないことかもしれないけど。

「ようし、それじゃあ全員集まったところで、乾杯しようぜ」

 私の次に遅れてやってきた後輩の林くんが、どうやら最後の一人だったみたいだ。これで参加者全員が揃ったらしい。幹事役の鈴木くんの音頭で、各々がジョッキやグラスを持って軽く掲げる。

「そんじゃあまぁ、明けましておめでとう! 今年も仕事頑張っていこうぜ! かんぱ~い‼」
「「かんぱ~い‼」」

 グラスの中身を喉に流し込めば、外の寒さで冷えていた身体に、じんわりとアルコールの熱が広がっていく。
 次々に運ばれてくる酒の肴になりそうな品を軽く摘まみながら、先日晴れて意中の彼と恋人同士になれたのだという三奈の惚気話を聞いたり、普段職場であまり話す機会のない先輩や後輩たちとの談笑を楽しんだりした。
 そうすればあっという間に二時間が経過していて、ほろ酔い気分のままに店を出た。真冬の冷たい空気が肌を差して、火照った身体の熱が少しずつ引いていく気がする。

「百合子、二次会は行かないの?」
「うん、私は帰るね。三奈は? 例の彼はいいの?」
「うん、今日も仕事なんだってぇ。でも、明日の夜は二人きりで過ごせるからいいの」
「そっか。良かったね」
「百合子こそ、もしかして二次会に参加しない理由って、例の彼氏が待ってるからなんじゃないの?」
「うん、まあ……」
「いいわねぇ、お熱いようで」

 スマホを確認すれば、居酒屋の最寄りの駅で待っているという黒瀬くんからのメッセージが入っていた。私も今終わったから向かうという旨のメッセージを送って、幹事役の鈴木くんに先に帰ることを伝える。

「それじゃあ百合子、また職場でね」
「うん、また連絡するね」

 三奈に手を振って、二次会に向かう集団とは反対方向に足を向ける。

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