逃げられるものならお好きにどうぞ。

小花衣いろは

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ほしがることは罪ですか?

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 出勤前にコンビニで飲み物を選びながら、私は昨夜の帰り道の黒瀬くんとの会話を思い出していた。

 ――黒瀬くんは、いつだって真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる。私も、もっと素直に、好きだよって気持ちを伝えたい。

 素直に思いを伝えたり甘えたりするのは、年下の男の子って思うと少しだけ気恥ずかしい思いもあるし、何より私の恋愛経験のなさと素直でない性格も要因の一つだということだって、分かってはいるんだけど……。

 レジで会計をしながらそんなことをうだうだと考えていた中、一つの案を思いついた。少しずるいやり方だとは思うけど……やらないよりは、やった方がいい。

 そして私は、目についた一つの商品を手に取って、「すみません、これも一緒にお願いします」と会計をお願いした。


***

「あれ? 百合子さん、今日来るって言ってたっけ?」
「ううん、ちょっと用が合って立ち寄っただけだから。今日は直ぐに帰るよ」
「せっかくだし飲んでいけば? 俺も今日はまだ上がれないから、送っていけないし……」
「大丈夫。まだそんなに遅い時間じゃないし」

 そう伝えて、持っていた紙袋を黒瀬くんに手渡す。

「これ、黒瀬くんに」
「これは……」
「ほら、クリスマスプレゼントのお返し。私、大したもの用意できなかったし」

 ――クリスマス・イヴ当日。イルミネーションを見て帰ろうとしたタイミングで、黒瀬くんからクリスマスプレゼントを貰ったのだ。
 ブラウン調の肌触りの良さそうなマフラーに、百合の花を形どったロジウムのネックレス。真ん中にピンク色のストーンが埋め込まれているもので、一目見て気に入ってしまった。私の名前が“百合子”だからこれを選んだのだと、黒瀬くんは優しく笑いながら教えてくれた。

「そんな、気にしなくていいのに」
「いいの、私がプレゼントしたかっただけだから。……受け取ってくれる?」
「うん。ありがとう百合子さん。……中、見てもいい?」
「あ、でもほら、今はまだ仕事中だろうし……帰ったら、ゆっくり見た方がいいんじゃないかな?」
「……それもそうだね。後でのお楽しみにしておこうかな」
「うん。それじゃあ、私は帰るから」

 ミッションは達成できたと満足した私は、一杯だけ頼んだノンアルのカクテルを飲み干して、会計を済ませてから出入り口の方に足を向ける。
 黒瀬くんは最後まで「気をつけて帰ってね」とそのまなざしに心配の色を宿しながら、私を見送ってくれた。

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