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もう絶対に、逃がさない
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しおりを挟む辺りは依然としてワイワイとした賑やかさで満ちているのに、私と黒瀬くんの周りだけ、何ともいえない微妙な雰囲気が漂っている。
「……その、ごめんね、黒瀬くん。嫌な思いさせちゃって」
「何で百合子さんが謝るの? 悪いのはデートの邪魔してきたあいつでしょ?」
人混みから離れて、座れそうなスペースのある石段に腰を下ろした。黒瀬くんが買ってきてくれたホットココアには雪だるまの形をしたマシュマロが浮かんでいて、見ているだけでも癒される。一口飲めば、何だか肩の力が抜けたような気がした。
「……私ね、前に黒瀬くんに言われた通り、男の子と付き合ったこととか……恋愛経験ってほとんどないんだ。さっきの……小林っていうんだけど、中高と一緒でね。何故かやたらと絡まれてたの。勝手に筆記用具とか使われたり、からかわれたり……嫌だって言っても止めてくれないし、周りの男子も、話してるだけで出来てるとか言ってからかってくるし……だから正直、あの頃から男子に苦手意識もあって」
「うん」
「あとはまぁ、小林の言う通り……私って地味だし、これといった取り柄もないし。特に面白みのない人間だから……自分に自信がないんだ。でもそんな自分を変えたくて、二十八歳になって上京してきたんだけど……結局、全然変われてないみたい」
結局小林にだって何も言い返せなくて、言うだけ無駄だって諦めた。逃げを選択しようとした。――あの頃と同じで、何も変われてない。
私の話を黙って聞いてくれていた黒瀬くんが、「俺は……」と口を開いた。漏れた吐息が、白く染まって宙に溶けていく。
「百合子さんは、すごいと思う。だって変わりたくて、こうして行動してるんだからさ。それだけでも十分すごいことでしょ」
「でも……」
「俺なんてさ、ただ流れに身を任せて生きてきただけだよ。結局は、逃げてただけだったのかもね」
そう言ってどこか寂しそうに笑った黒瀬くんは、「それに」と言葉を続ける。
「ただ、あの小林とかいう男の見る目がないだけだろ。百合子さんは、凄く魅力的な人だよ」
恥ずかしげもなくサラッと褒められた。黒瀬くんの私を見るまなざしは、どろりとした蜜を孕んでいるような甘さで満ちている。僅かに目線を下げれば、顔を覗き込まれて「ふっ、真っ赤」と笑われる。
「それに……さっきの奴にも、ほんの少しは感謝しないとかな」
「感謝って……どうして?」
「だって、百合子さんのはじめて全部、俺が貰えるってことだから」
「……ねぇ、それってどういう「百合子さん。こっち、きて」
立ち上がった黒瀬くんに手を取られて連れていかれた場所は、公園を抜けて少し歩いた先、溢れんばかりの星々が散りばめられた、大きなクリスマスツリーが飾られている場所だった。周囲はこの時期限定なのだろう白や青のイルミネーションで彩られていて、辺りにはカップルの姿も多く見られる。
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