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もう絶対に、逃がさない
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しおりを挟む「百合子さん、待ってたよ」
「ごめんね。遅くなっちゃって」
手を振る黒瀬くんのもとに近寄りながら謝罪すれば「大丈夫。百合子さんのことを考えながら待ってる時間も、結構楽しかったから」とにっこり笑みを返される。
真正面から甘い言葉を告げられて照れていれば、黒瀬くんの後ろで固まっていた男の子が驚いたような声を上げた。
「……は!? おまっ、キャラどうした!? つーか何だよ、めっちゃ美人なお姉さんじゃん! 椿、お前やっぱり年上好き…「うん。いいから、いい加減帰ってくれる?」
私たちのやりとりを黙って見ていた男の子が、目を見開いて黒瀬くんに捲し立てるように言っている。だけど笑顔の黒瀬くんに言葉を遮られて、ぶぅぶぅと不満そうに唇を尖らせた。
「ケッ、はいはい、お邪魔虫はさっさと退散しますかね。そんじゃお二人共、良いクリスマスを!」
そう言って、最後にはにっこり気の良い笑みを見せてくれた男の子は、駅の改札口の方に向かって走っていってしまった。
「今の、黒瀬くんのお友達?」
「あー、まぁ、友達っていうか……前にバーに客として来たことがあって、そこで何となく話すようになったって感じかな」
「ふふっ、そっか」
「……何か、嬉しそう?」
「ん? いや、黒瀬くんが友達と話してる姿を見るのって初めてだったから、何だか新鮮だなって」
「ふーん」
よく分からないって顔をしていた黒瀬くんは、からくり時計を見上げて時刻を確認すると、自然な動作で私の左手を攫っていく。
「それじゃあ、行こっか」
繋がった手は、指を絡められて、恋人繋ぎになった。触れた掌からじんわり熱が伝わってくる。
こんな風に男の子と手を繋ぐのは初めてのことだから、少しだけ照れを感じてしまう。だけどそれを隠すように平然を装って、黒瀬くんに話しかける。
「今日は、どこに行くの?」
「公園の方に行ってみない? 今ちょうど、クリスマスマーケットをやってるんだって」
「へぇ。私、クリスマスマーケットって行ったことないかも」
「うん、だから此処に決めたんだ。前に行ってみたいって言ってたから」
「……そっか。ありがとう」
「いーえ。実は俺も行ったことないんだよね。マスターに聞いたら、美味いものもたくさんあるって言ってたし、イルミネーションも綺麗なんだってさ。百合子さん、そういうの好きでしょ?」
「……うん、好き」
私の言ったことを覚えていてくれたことも、私のことを考えて行き先を決めてくれたことも、全部嬉しい。だけどそれを全部素直に言葉にすることができなくて、小さな声で「好き」と返した。
でも、黒瀬くんにはそれだけでも伝わったみたいで「ならよかった」と嬉しそうにはにかんでいる。――やっぱり黒瀬くんのことが好きだなぁって。胸がぎゅって、苦しくなった。
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