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降り積もるそれは、きっと。
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しおりを挟む「ほら、家まで送っていくよ。行こう――百合子さん」
「え、名前……」
「うん、呼びたいなって思ったから」
「……まぁ、いいけど」
――前は、名前で呼ぶの、嫌がってたみたいだったのに。私も、別に呼ばれ方なんてどうでもいいって、そう思っていたはずなのに……でも今は、名前を呼んでもらえたことが、こんなにも嬉しい。
「……あ、雪」
「どうりで寒いわけだよね。百合子さん、これ使って。風邪ひくと悪いから」
空から白い結晶がふわりと舞い降りてきた。初雪だ。黒瀬くんが、自身の首に巻いていたマフラーをとって私の首にかけてくれる。
「私は大丈夫だから。黒瀬くん、コートも羽織ってないでしょ。私より、黒瀬くんの方が風邪ひいちゃう」
「大丈夫だよ。その時はまた、百合子さんに看病してもらうから」
そう言って、大きな掌に左手を攫われる。繋がった黒瀬くんの手は冷たいはずなのに、そこからじんわり熱が伝わってくるような気がして、何だかひどく安心する。
少しずつでもいいから、これから黒瀬くんのことを、もっと知っていきたい。今日みたいに、色々な表情を見てみたいと思う。
胸に積もり始めている感情の正体に、私はとっくに気づいてる。だけど、今はまだ……あと少しだけ、この穏やかな時間に浸っていたい。
隣に立つ黒瀬くんを見上げながら、考える。
――好きになることなんて、絶対にないって。そう、思ってたのになぁ。
「……ん? どうかした?」
「……ううん、何でもない」
「ほんとに? すごい熱視線を感じたんだけど」
「別に……ただ、今日も相変わらず綺麗な顔してるなぁって見てただけ」
「ふっ、何それ」
黒瀬くんの優しい笑顔を見て、大切にしたい感情が、また少しずつ募っていく。それは雪のように静かに、しんしんと。――胸いっぱいに、降り積もる音がした。
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