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降り積もるそれは、きっと。
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しおりを挟む男性がいなくなって、道端に二人きり。何とも気まず過ぎる沈黙が辺りに漂う中、先に口を開いたのは黒瀬くんだった。
「巻き込んで、ごめんね」
「……どうして黒瀬くんが謝るの? それに……どうしてさっき、無視したの?」
どうして黒瀬くんはパーティー会場にいたのか、何で美代さんと一緒だったのか、あの男の人とはどういう関係なのか。
聞きたいことは山ほどあった。だけど一番に聞きたかったのは、口に出してしまった言葉は……。
――無視されたことを、自分で思っていた以上に寂しく感じていたみたいだ。
黒瀬くんと目は合わせられなくて、視線を地面に落としたまま問いかければ、黒瀬くんは珍しく口籠って……だけど一言一句言葉を選びながら真摯に答えてくれる。
「ごめん。今は仕事の関係で、としか言えないんだ。でも、あの会場に居たことも、美代さんと一緒に居たことにも、疚しいことは一切ないよ。さっきの奴は……仕事絡みで知り合ったんだ。会場で無視したのは、お姉さんを巻き込みたくなかったからで……」
必死に伝えてくれる黒瀬くんを見ていたら、胸中にあった負の感情が、空気の抜けた風船みたいにシュルシュルと萎んでいくのを感じる。
黒瀬くんの今の言葉に嘘はないって、そう思えるから。――私は黒瀬くんのことを、信じたい。
だけどあっさり許してしまうのも何だか悔しくて、わざとムッとした顔でふてくされた振りをしてみる。無言のままちらりと視線を向ければ、黒瀬くんは本気で困ったような顔をしていて。
「……ふふっ、困らせてごめんね。分かった、無視したことは許すよ」
「……ほんとに?」
「うん。心配してきてくれて、ありがとう」
黒瀬くんを見上げて、そのまま彼の胸元にコツンとおでこを当てて背中に腕を回した。だけど自分でしたくせに恥ずかしさが込み上げてきて、慌てて離れる。
「ご、ごめんね」
いきなりくっついてしまったことを謝るけど、黒瀬くんからは何の反応もない。
――突然抱きついたりして、引かれてしまっただろうか。
そろりと上を見上げてみれば、そこには――頬を薄っすら赤く染めた、黒瀬くんがいて。
「っ、ふふっ」
初めて目にするその表情に、思わず笑みを漏らしてしまった。
「……笑わないでくれる?」
口許を手の甲で隠して、拗ねた様子でむくれた顔をする黒瀬くんだったけど、直ぐにその顔に意地の悪い笑みを浮かべたかと思えば――ちゅっと音を立てて、瞼の上にキスされる。
「なっ……」
「やられっぱなしは性に合わないからね」
ふふん、と満足そうに笑う黒瀬くんは、案外負けず嫌いなのかもしれない。――今日は、黒瀬くんの色々な表情を見ることができた気がする。
「あと、さっきのドレス。凄く似合ってたよ。可愛かった」
「……さっきは無視したくせに」
「うん、ごめんね。もうしないから」
わざとそっぽを向いて言えば、黒瀬くんはクスクス笑って、軽い謝罪を口にした。
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