32 / 134
降り積もるそれは、きっと。
2
しおりを挟むもしかしたら、目の前にいる男性の仲間かもしれない。怖くなって持っていたバッグを後ろの人物に向けて思いきりぶつけてやれば、肩に乗っていた手が離れていく。
「いたっ、お姉さん、俺だよ」
「……くろせ、くん?」
そこに立っていたのは、黒瀬くんだった。依然としてチャコールグレーのタキシードに身を包んだままで、その息は上がっている。ここまで走ってきたのだろうか。
「はぁ、……無事でよかった」
安堵した様子で溜息を漏らした黒瀬くんに、抱きしめられる。その身体はすごく熱くて、くっついた胸元からはトクトクと早い心音が伝わってきた。やっぱり、ここまで走ってきてくれたみたいだ。
「どうして、黒瀬くんがここに……?」
困惑を顕わにしたまま問えば、「お姉さんがいないことに気づいて、慌てて出てきたんだ」と返される。
「……ククッ、やっぱりおれの勘って冴えてるなぁ」
黒瀬くんの登場に、長髪の男性が、何故かクツクツと笑い声を漏らしている。黒瀬くんは私から離れると、男性を睨みながら、聞いたことのないような低い声を響かせた。
「……この人に何した。何言った。返答次第では……殺す」
――まさかの黒瀬くんが、マジギレしている。その圧に私までびびってしまいそうになりながら、でもこの状況で何をどうしたらいいのかも分からず、黙って様子を見守ることしかできない。
黒瀬くんに睨まれている男性は、尚も笑い続けながら、視線を逸らすことなく黒瀬くんをじっと見据えている。
「そんなに怒んなって。おれと椿の仲だろ? おれはただ、その子が椿にとってどんだけ意味のある子なのか、確かめようと思っただけで……」
男性の言葉が、そこで途切れる。――何故なら黒瀬くんが、男性に向けて鋭い蹴りを繰り出したからだ。正直動作が早すぎて、黒瀬くんが足を上げたことにすら気づかなかったし、男性の顔面横すれすれでピタリと蹴りの勢いを止めていることに、私は驚きを通り越して半ば呆然としてしまっている。
「……もういい。さっきから煩い。さっさと消えてくんない」
黒瀬くんが凄めば、長髪の男性は「おぉ、怖い怖い」とおちゃらけながら、両手を小さく挙げて降参のポーズをとる。
「それじゃあ、邪魔者は退散するとしますか。……オネエサンも、またね」
去り際に私にも手を振って、男性は立ち去っていった。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

【完結】婚約破棄されたので隠居しようとしたら、冷徹宰相の寵愛から逃げられません
21時完結
恋愛
「君との婚約は破棄する。新しい婚約者を迎えることにした」
社交界では目立たない公爵令嬢・エレノアは、王太子から突然の婚約破棄を告げられた。
しかもその理由は、「本当に愛する女性を見つけたから」――つまり、私ではなく別の令嬢を選んだということ。
(まあ、王太子妃になる気なんてなかったし、これで自由ね)
厄介な宮廷生活ともおさらば!
私は静かな領地で、のんびりと隠居生活を送るつもりだった。
……しかし、そんな私の前に現れたのは、王国宰相・ヴィンセント。
冷酷無慈悲と恐れられ、王宮で最も権力を持つ彼が、なぜか私のもとを訪ねてきた。
「エレノア、君を手に入れるために長く待った。……これでようやく、俺のものになるな」
――は? ちょっと待ってください。
「待ってました」とばかりに冷酷な宰相閣下に執着されてしまった!?
「君が消えてしまう前に、婚約破棄は阻止しておくべきだったな」
「王太子に渡すつもりは最初からなかった。これからは、俺の妻として生きてもらう」
「逃げる? ……君は俺から逃げられないよ」
私はただ田舎で静かに暮らしたいだけなのに、なぜか冷徹宰相の執着から逃げられません――!?
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる