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降り積もるそれは、きっと。
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しおりを挟むホテルを出て一人で歩いていた最中。後ろからの呼び声に、私は反射で振り向いた。
「やぁ、お姉さん」
だけど、振り向いた先。頭の中に思い浮かべていた人物は――そこにはいなかった。
「はは、あからさまにガッカリした顔させちゃった」
「……あなたが“佐藤さん”ですか?」
そこに立っていたのは、バーで声を掛けてきた男性だった。こっちは訳も分からぬまま着飾られてパーティー会場に連れていかれて、最後まで意味の分からなかった時間を過ごしていたというのに――いけしゃあしゃあと笑っている姿に、怒りが込み上げてくる。
「さっきの全部、どういうことですか? ……何のために、私をホテルに?」
三メートルほど開いていた距離を一歩だけ詰めて問いかければ、男性はへらへらと笑いながら口を開く。
「あはは、まぁそう怒らないでよ。でも……結局見当違いだったのかねぇ。椿のやつなら絶対……んー、おれ、勘は鋭い方なんだけどなぁ」
意味の分からないことをブツブツと呟いている男性。その口から聞こえた名前に、私は開いていた距離をまた一歩詰めて問いかける。
「黒瀬くんのこと、何か知ってるんですか?」
「ん? うん、知ってるよ」
「……黒瀬くんと、どういった関係なんですか?」
「それはねぇ……」
何故かそこで口を閉ざした男性は、私の目をじっと見て、どこか酷薄じみた微笑を浮かべる。
「世の中ねぇ、当たり前に、知らないことの方が多いんだよ。つまりわざわざ知らなくても……こっちに足を踏み入れなくとも、生きていけるってことさ」
「……どういう意味ですか?」
的を射ない言葉に、苛立ちが募っていく。それらをぐっと押しとどめて静かに問い返せば、男性は薄笑いを浮かべてコテンと首を傾げた。
「つまり、知らない方がいいこともあるってこと。椿のやつ、君に何も話してないんだろ?」
そう言って、男性は何故か、開いていた距離を一気に詰めてくる。
反射で後退りながら、今更になって、素性もよくわからない男性と二人きりで話していたことに遅すぎる危機感を感じる。此処から逃げるすべを考えていれば――今度は背後から、肩を掴まれた。
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