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私の知らないあなた
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しおりを挟む三奈と一緒に振り返れば、長い黒髪を後ろで一つに結んでいる、綺麗な顔をした男の人が立っていた。その視線はまっすぐ私たちに向けられている。
「すみません。よろしければお隣、座ってもいいでしょうか?」
「いや、私たち…「はい! どうぞどうぞ!」
断ろうとすれば、私の声に被せて三奈が食い気味に了承してしまった。背もすらりと高くて色気が漂っていて、面食いの三奈が好きそうな顔立ちをしている。
「ありがとうございます」
爽やかに笑った男性は律儀にお礼の言葉を告げて、隣に腰掛ける。――何故か、私の隣に。
「……あの、そこに座るんですか?」
「はい。駄目ですか?」
「いえ、駄目というか……」
右隣から、ひしひしと三奈の熱い視線を感じる。
「えっと、三奈…友人の隣も空いているので、良ければそちらに座ってもらえませんか?」
「あー……すみません。僕、今日のラッキースポットが左の席だったんです。なので此処で」
「……それじゃあ私、友人と席を変わりますね」
「あ、待ってください。今日の僕のラッキーパーソンは、髪の長い女性なんですよ。なのであなたはそこに座っていてください」
「……」
髪の長い私とショートヘアの三奈を交互に見た男性が、ニコリと笑って言う。
――何なのこの人。ただの変わり者なのか、物凄い占い信者か何かなのだろうか。とりあえず、変な人であることには間違いなさそうだけど。
三奈にもう帰ろうと伝えるため振り向けば、何故か含みのある笑顔を浮かべている彼女は、無言でグッと親指を立てている。かと思えば「それじゃあ、後はお若いお二人で」と意味の分からないことを言って腰を上げようとする。
「ちょっ、ちょっと三奈、どこ行くの!?」
「どこ行くのって、先に帰るに決まってるでしょ」
「何で!」
「何でって……どう見たって彼、あんたに気があるじゃない。ふふ、良かったじゃない百合子。これであんたにも春到来よ。やだ、もしかして私って……恋のキューピット?」
小声で話し続けていれば、「あの、どうかしましたか?」と男性に声を掛けられる。
「それじゃあ、私はこれで」
意味ありげなウィンクを一つ落とした三奈は、本当に一人で店を出て行ってしまった。残された私たちの間に、何とも言えない、気まずい沈黙が流れる。
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