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修羅場は御免と寂しい横顔
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しおりを挟む二時間ほどのアクション映画を観て劇場から出れば、澄んでいた青空は茜色に染まっていた。
最近、一気に陽が落ちるのが早くなってきたように感じる。今は十月で暦の上では秋だけど、あっという間に寒くなって冬が訪れるんだろうなぁと、ぼんやり考える。
私だけかもしれないけれど、歳をとるにつれて、特に何もしていないのに、ただただ年齢だけが上乗せされていくような感覚ばかり覚えてしまう。なんてことを職場の同僚である三奈に話したら、「そんなの男がいないからに決まってんでしょ! 百合子も早く彼氏作りなさいよ!」と力説されてしまったのは、記憶に新しい。
「それじゃあ俺、これからバイトだから。今日はここで」
これからバイトだという黒瀬くんの勤務先が、彼と初めて出会ったバーだということは、この前二人で出掛けた時に教えてもらったことだ。
「そっか、頑張ってね」
「うん。……ねぇ、お姉さんさ、来週の十一月三日って空いてたりする?」
「三日? 普通に仕事だけど……まあ夜なら空いてるよ。何で?」
「その日、あのバーにきてくれないかな?」
「……何で?」
「ふふっ、何での連発だね。んー、まあ理由は……俺の誕生日だから? お姉さんにお祝いしてほしいなって」
今日から約一週間後が、黒瀬くんの誕生日らしい。それはとてもおめでたいことだと思う。だけど……。
「黒瀬くん、女の子にモテモテみたいだし……祝ってくれる子なんてたくさんいるんじゃないの?」
純粋に疑問に思って口から出てきた言葉だった。
彼がモテるタイプの人間であることは百も承知だし、ただ数回会っただけの地味でパッとしない女に祝ってもらうより、もっと若くて可愛い、仲の良い女の子が周りにたくさんいるんじゃないかって。……そもそも黒瀬くん、私のことタイプじゃないとか言ってたしね。出会った時のこと、まだ少しだけ根に持ってるんだから。
「別にそんなにモテないよ、俺。それに……」
そこで言葉を切った黒瀬くんは、いつものように笑っているけれど……その表情が、いつもよりほんの少しだけ、陰を帯びているように感じる。
「……誰も本当の俺に興味なんてないから。皆最後には、本当に大切な人のところに行っちゃうからね」
――今の、どういう意味だろう。よく分からないけど、黒瀬くんのどこか沈んだ表情を目にしてしまった私は、気づけば了承の言葉を口にしていた。
「……まあ、お祝いくらいなら……してもいいけど」
「……ほんと?」
「といっても、そんなに大したことはできないからね? プレゼントとかも、そもそも黒瀬くんの好みとかよく分からないし……」
「ああ、別にプレゼントなんていらないよ。ただ当日に、お姉さんにおめでとうって言ってもらいたいだけだから」
「え、それだけでいいの……?」
「うん」
嬉しそうに微笑んだ黒瀬くんは「それじゃあ、来週楽しみにしてるね」と手を振って行ってしまった。
最後に見た黒瀬くんの顔に、つい先ほど感じた陰りは見られなかった。そのことに何だかホッとしてしまって……でも何で安心しているのか、自分でもよく分からなくて。
ただ、黒瀬くんには、暗い顔より笑顔の方が似合う。そんなことを考えながら、男の子との付き合いがこれまでほとんどなかった私は「(さすがにプレゼントはいるよね……どうしよう)」と、これから一週間頭を悩ませることになるのだった。
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