逃げられるものならお好きにどうぞ。

小花衣いろは

文字の大きさ
上 下
10 / 134
はじめての○○○と○○

5

しおりを挟む


 某ハンバーガーショップのチェーン店にて。
 まずは昼食を食べようという話になり、何となく目についた店で食事をすることになった。

 今回は助けてもらったお礼ということで私が奢ることになるのだし、黒瀬くんには好きなものを食べてもらおうと思っていたんだけど……本当にこの店で良かったのだろうか。ハンバーガーはもちろん美味しいし私も好きだけど、お寿司とか焼肉とか……そういうものを希望するのかなと、勝手に思っていたのだ。

 黒瀬くんを見れば、メニューを見て「どれにしようかなぁ」と迷っている様子。その顔に不満そうな色は見られない。

 何事もなく注文を終えて会計となったので、鞄から財布を取り出そうとすれば、それよりも早く、黒瀬くんが「カードでお願いします」と言ってあっという間に会計を済ませてしまった。

「え、私が払いますよ! 第一、これはお礼ってことなんだし…「いいからいいから」
「でも……」
「女の子に奢ってもらうなんて格好つかないでしょ?」

 そう言われてしまうと、何とも言葉を返しづらい。後で代金を渡そうと決めて、受け取ったトレーを持って二人で空いている席に腰掛ける。

「んっ、これ美味しいね。お姉さんも一口食べる?」
「……ううん、大丈夫です」
「そう?」

 黒瀬くんは大きなハンバーガー二つとLサイズのポテトに加えて、ナゲットまで注文していた。その食べっぷりを見ているだけで、お腹がいっぱいになりそうだ。
 それに、見た目も細くて何となく小食そうなイメージがあったから、大きな口を開けて美味しそうに頬張る姿に、何だか見とれてしまう。

「ふぅ、美味しかった。お姉さんは、本当にそれだけで足りるの?」
「うん、十分だよ。お腹いっぱい」

 私の倍以上の量を先に食べ終わった黒瀬くんは、頬杖をついて私が食べる様子を見ていた。かと思えば、紙ナプキンを手にとって、私の口許に手を伸ばす。

「お姉さん、口にソースが付いてたよ」
「っ、い、言ってくれれば、自分で拭くから……!」
「ふっ、もう拭いちゃったよ」

 年下の男の子の前で口許にソース付けたまま食べていたとか、恥ずかしすぎる。顔に熱が集まるのを感じながら、残っていたシェイクを一気に飲み干す。

「……ご馳走様でした! ほら、もう行こ!」
「うん、そうだね」

 クスクス笑いながら私の後をついてくる椿くんは、絶対に性格が悪いと思う。確実に私の反応を見て愉しんでいる。……年上をからかって、失礼な奴め。

 そのまま店を出て、ぶらぶらと当てもなく辺りを散策する。

「お姉さん、何処か行きたいとことかある?」
「……それじゃあ、」

 黒瀬くんの言葉に私が選んだのは、此処から電車で三駅のところにある、美術館だ。
 黒瀬くんは美術館なんて柄じゃないだろうし、嫌がるか、先に帰ってしまうかのどちらかを選択すると思っていた。けれど予想に反して、黒瀬くんは不満の一つも言うことなく私の後をついてきた。

「へぇ、綺麗な絵だね」

 美術館に入場した現在も、嫌な顔一つすることなく、静かに絵画や彫刻を見て回っている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

処理中です...