逃げられるものならお好きにどうぞ。

小花衣いろは

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はじめての○○○と○○

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 黒のタートルネックにダークグレーのチェスターコートを羽織り、その長い脚には黒のスキニーパンツ。全体的に真っ黒な格好をした黒瀬くんが、駅ビルの前に立っている。その佇まいは、そこらのアイドルやモデルにも引けを取らないくらいに格好良くて、人目を引いている。

 けれど黒瀬くんは、一人じゃなかった。傍にいるのは、ブラウンのトレンチコートを着こなし、ショートパンツを履いて細い足を惜しげもなくさらけ出している可愛らしい女性。
 遠目に見た時はナンパでもされているのかと思ったけど……どうやら違うらしい。黒瀬くんの腕を掴んだ女性の鬼気迫った表情が、それを証明してくれる。

「椿ってば! ちょっと聞いてるの!?」
「……」

 大きな声でわめく女性と、完全無視を決め込んでいる黒瀬くん。足を止めてそのままUターンしようとすれば、黒瀬くんの真っ黒な瞳がこちらに向けられる。――目が、合ってしまった。

「お姉さん、おはよう」
「……おはようございます」

 女性をその場に置いて近づいてきた黒瀬くんは、今日もイケメンオーラ全開で、だけどどこか胡散臭く感じるような、爽やかな笑みを浮かべている。

「このまま現れなかったら、お姉さんの家まで迎えに行こうと思ってたんだけど……きてくれてよかったよ」
「……」

 ――家まで迎えにくるとか、勘弁してほしい。

 顔を引き攣らせていれば、先ほどの可愛らしい女性が近づいてきて、後ろから黒瀬くんの腕を掴んだ。

「ちょっと椿! まだ話は……って、何? もしかして、新しい彼女?」

 上から下までジロジロと不躾な視線で見られて、居心地の悪さを感じる。

「ふぅん……椿のタイプとはだいぶ違うんじゃない?」

 ――そうなんですね。でも別に私は彼の彼女でも何でもないので、どうぞこのまま彼を連れてどこへでも行ってもらって構わないんですが。

 さすがに口に出す勇気はないけれど、心の中で、このまま二人で何処へでも行ってください、むしろ彼を連れて行ってくださいと、念を送っておく。

 何も言わない私に気をよくしたらしい女の子が、ふふん、と満足そうに口角を上げて、黒瀬くんの腕にしがみつこうとする。

「……あのさ、」

 ――けれど、黒瀬くんがその手を振り払ったことで、彼女の手は宙で固まることとなった。

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