溺れるほど抱きしめて

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第一章

3. 甘い支配

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いつもの、プレイを始める合図。


「……っ……“アイ”……」

「そう」


今の彼の震えは羞恥ではない、おそらく期待だ。
彼は膝枕から身体を起こし、横に座ってこちらを見つめてくる。


「“kneel(おすわり)”」


そんな彼に軽いグレアと共にコマンドをあげると、ソファから崩れるように下りて、足元にへたりこんで俯いた。


「……天音、“kneel”だよ」


おすわりが苦手な彼に、俺が教えたおすわりはそうではなかっただろう、と諭すように告げる。


「……っ、ごめんなさ……」


そこまで強い口調ではなかったと思うが、“sub”の彼はdomに対する忠誠心が高い。コマンドに従えなかったという自己嫌悪からか落ち込んでいる様子だ。


「できるよね?」


そんな彼も可愛いけれど、コマンドに従ってもらえないとdomの方は満たされない。
もう一度声をかけると、彼は太ももを開いてその間に手を置き、そして顔を上げてこちらを見つめてくれた。
今にも泣き出しそうなその顔が、堪らなくいい。


「“good boy(いい子)”」


無事、コマンドに従えた彼にはリワードを与えなければ。
柔らかな茶髪を撫でてやると、手のひらに頭を擦り付けてきて。彼が喜んでいるのが伝わり、ひどく満たされた気持ちになる。

だがここでは終われない。1ヶ月分のコマンドを彼に差し上げないと。俺も彼も、まだまだ満足できないだろう。


「“come(おいで)”」


跪いている彼に手を伸ばして膝に乗るよう誘う。
ぱっと顔を輝かせた彼は飛びつくようにこちらへやって来た。


「“good(いいね)”」


彼を抱きしめると彼からも抱きついてくれる。


「……たいち、すき……すき……」


そう、彼はこれが好きなのだ。


「天音」


幸せに浸っている彼の名前を呼べば、素直にこちらを向いてくれる。その従順な姿に俺の中のdomが加速していく。


「“kiss(キスして)”」


今ならいけるか、と唇を指してコマンドを出すと、一転、彼はまた泣き出しそうな顔になる。


「………ぁ、う……」


彼は自分からキスするのも苦手。
だからこそいじめたくなってしまうのがdom性で。


「天音、“kiss”」


subの彼もコマンドに従えないのは辛いようで、ゆっくりと顔を近づけてくれる。


ちゅ、と唇が触れて。


彼との口付けは何週間ぶりだろうか。柔らかい唇に何度も吸い付いてしまう。

止まらなくなって、そのまま口内に舌を入れ込んで。


「……っぅう……ん……ん……」


唾液の絡む音が静かな部屋に響く。

くちゅ、と卑猥な音が響くたびに彼が反応しているのが可愛くて。彼の耳を塞いでさらに音が響くように悪戯すると、声にならない声でこちらに何か訴えている。

やっと顔を離してあげると、顔を赤くして震える彼の口には唾液がまとわりついていて。それを拭ってまた頭を撫でる。


「“good boy(いい子だよ)”」


リワードをあげると一瞬で良い顔になるのが愛おしい。


「……も、やだ……いじわる……」


その良い顔で、頑張って悪態ついてくるのがさらに愛おしい。


「……ほんとに嫌ならセーフワード、だろ」

「……」


黙りこくってしまう彼。本当は意地悪されるのも嫌いじゃないの、知ってる。



「“kneel(おすわり)”」
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