溺れるほど抱きしめて

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第一章

2. 朝食。

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2人でダイニングテーブルに並んで座る。最初の方は向かい合って座っていたが、並んで座る方が距離が近いからか、気づけば彼が俺の隣に座るようになっていた。

午前11時。遅めの朝食、というかもはや昼食かもしれないが。

久しぶりの日本食に彼は美味しい、と笑ってくれた。


「煮物、作ったの?」


普段煮物なんて作らないのに急に食卓に並んだのを不思議に思ってか、彼はそう尋ねてきた。


「いや、これは母さんが持ってきてくれた」

「……お母さん、この部屋来た?」

「うん。3日前とかかな」

「そうなんだ」

「あ、3日前のだけど冷凍してあったから大丈夫だよ」


丁度1週間前だった。東京に行く予定があるから会えないかと母から打診が来て、その4日後に会うことになった。

俺の仕事の関係でなかなか外で会うのは難しいので、彼もいないし、と部屋に招いたのだった。


「……俺のこと、話した?」

「……いや、言ってない」


男同士というのはなかなか受け入れ難いだろうから、家族に言っているのはパートナーと同棲しているということだけ。


「女の気配ないから勘付かれてるかもしれないけどね」

「ん……」


ここで、なぜかまた甘えるようにこちらに擦り寄ってくる彼。


「……プレイしたい」


何かと思えば上目遣いでおねだりしてきて。唐突だなと思いながら頭を撫でて、いいよと伝えてあげると嬉しそうにしているのが本当に可愛らしい。

まずは片付けようと、彼の分と共に食べ終えた食器を食洗機に入れ、いつの間にかソファに移動していた彼の横に座る。


「ありがと」

「ううん。ゆっくり休んでほしいから」

「太一は優しいね」


君に対してだからだよ。
なんて小粋なことは言わないけど。



「……アメリカってさ、すごいオープンだった」

「え?」


プレイをしたいと言ってきてこちらもその気だったのに、何か話を始めようとする彼に少し戸惑う。

でも膝に頭を乗せてきて、潤んだ瞳でこちらを見つめてくるので聞いてやるしかない。


「アメリカ人で、一緒に仕事してた人の中に男同士で、domとsubのパートナーの人がいたんだけど」

「うん」

「なんか、日常生活がプレイっていうか。domの人がsubの人にずっと何かしてあげてたり、気づいたら頭撫でてたり、褒めてあげてたり……仕事中にだよ?」


いつもの彼よりも少し勢いのある話し方。


「周りも何も言わないし、なんなら街中にもそんなカップルいっぱいいて……」


瞳を揺らす彼を見てああ、と思う。
これは……


「……羨ましかった?」


図星なようだ。
一瞬目を見開いてから、頬を染める彼。


「……ぁ、う……ち、ちが……」

「違わない、でしょ?」


耳まで真っ赤にして、羞恥で震える彼に囁く。
自分が一気に“dom”になっている感覚に胸が昂る。


「天音、セーフワードは?」
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