炎陽の下吹く恵風

琴里 美海

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第四話

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 掴まれる。
 そう思った時、真横から何かが飛んで来てそいつに腕に食らい付いた。

(母さん!!!)

 母さんは一瞬だけあたいの方を見ると、体を捻ってそいつを思い切り投げ飛ばした。
 とん、と地面に降りると、ゆっくりとあたいを見た。

(あんなのを相手にするなんて、正直なところ自殺行為以外の何物でもない。)
(ごめん母さん。)
(だけど。)

 母さんはあたいの服を引っ張ってしゃがませると、あたいの血が出ている方の頬を舐めた。

(この程度の傷で済んで良かった。)

 そう言った母さんの瞳は、本当に安心した様子の瞳だった。
 さっき投げ飛ばした奴が起き上がると、母さんはすぐにそいつの方を見た。
 確かに母さんは強い。だけど何だろう、こいつはそもそも居る世界と言うかが違う気がするんだ。そんな奴相手に母さんが勝てるだろうか。
 そいつが走ってくると母さんは飛び上がった。それはもう高く、あたいが飛んだ時とは比べ物にならないくらい高く。
 そしてそのまま落下と同時にそいつの顔面に蹴りを入れて、後ろに飛ばされたそいつに走って追い付いて腕に噛み付いて、そのまま腕を引き千切った。
 千切った腕をその場に吐き捨てると、母さんは少しずつそいつに近付いて、逆にそいつは母さんから離れる様に後ろに下がって行った。そして後ろを向いて走って逃げ出した。

 野生において相手に背を向けるって事は、つまり自分が狩られる側に回ったと、相手に伝える様な物だ。だから母さんは容赦無くあいつを追い掛けた。あたいも母さんに続いて追い掛けた。
 どうやら山道は慣れてないらしい。それだったらあたいと母さんの方がずっと速い。
 すぐに追い付いて、母さんは頭に噛み付いて、あたいは胸の辺りに両手を突き刺して、そのまま爪で体を縦に真っ二つに引き裂いた。
 周辺に血の様な物が飛び散ると、母さんがあたいの所に駆け寄って来た。

(まさか裂くとは思ってなかったわ。)
(へへ、如何よ母さん、あたい少しは母さんに近付いてるか?)

 あたいがそう言うと母さんは少し驚いた様子でいたが、すぐに小さく鳴いた。

(勿論、そもそも貴方は私より強いんだから。)

 そう言ってから歩き出した。多分先に寝床に帰るんだろうな。あたいはそうだなぁ、この血みたいなの川で落としてから帰ろう。
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