夕餉添えの贄

琴里 美海

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第四拾壱話

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 目を開けた時辺りは真っ暗だった。
 起き上がって辺りを見回したけど何も見えなくて、何も無くて、私は急に不安になってその場で小さく震えた。

「暁光さん………………」

 こう言う時自然と口を突いて出てくる言葉は、やっぱり暁光さんの名前だった。
 何も出来ずにその場で震えていると、小さく声が聞こえて来た。だけどあまりにも小さくて最初は殆ど聞こえなかった。
 少しずつ声が大きくなって来ると、私は自分の耳を疑った。

「暁光さん?」
「氷柱…………………」

 本当に暁光さんの声だ。

「暁光さん如何して…………………」
「馬鹿、お前本当に馬鹿。何で死ぬ様な事してんだよ。」

 死ぬ様なって事は、私はまだ死んでないのかな。
 何でって聞かれて答えられるとしたら、一つだけしか思い付かない。

「暁光さんに会いたくて。」

 私がそう言うと暁光さんの溜め息が聞こえて来た。

「お前、だからってお前……………………死んだとしても会えるって限らないだろ。」
「済みません…………………………」

 それでも私は暁光さんに会いたかった。何年か経って、その思いがどんどん膨らんで行って、最終的にはこれです。

「あの暁光さん、暁光さんは何処にいるんですか?」
「は?」
「真っ暗で何も見えなくて。」

 夜の闇よりもずっと暗くて、すぐにでも自分が消えてしまいそうな、それくらい真っ暗な空間。だけど暁光さんの声が聞こえるだけで私は凄く安心出来る。

「………………氷柱、本当に何も見えないか?」
「はい。」
「落ち着いて周りを見ろ。」

 落ち着いて。
 そう言われてみれば私は随分と慌てていた気がする。だって気が付いたらこんな所だったから、怖くて仕方が無かった。だけど暁光さんの声が聞こえる今なら、結構落ち着いて周りを見る事が出来るかもしれない。
 深呼吸をして周りを見回すと、後ろの方に何かが薄らと見えた。それを暫く見ていると、明るい光だと分かった。

「光りが、見えます。」
「そうか。ならそっちに向かって歩いて来い。出来るだけ急いで。」

 私は立ち上がってそっちに向かって走った。
 とても温かな光りを私は知っている気がする。それは毎朝必ず訪れる夜明けの光。朝焼けの光。そう言えば暁光さんの名前の『暁光』って、明け方の日の光って意味だったっけ。じゃああの光は暁光さん?
 そんな事を考えている間に光りに手が届く。そう思った瞬間、光りの中から手が伸びて来て私の手を掴んだ。
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