夕餉添えの贄

琴里 美海

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第参拾参話

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 目の前を一瞬何かが通ったと思った次の瞬間には、血があちこちに飛び散っていた。地面には腕が落ちていた。だけどそれはどれも私のじゃなくて、今私の目の前にいる瑞光さんの物だった。

「あ?」

 瑞光さんも何が起きたのか分からないみたいで、凄く驚いた顔をしていた。
 何が如何なったのか何も分からない。だけど一つだけ分かる事は、また暁光さんが私を助けてくれた事だった。

「暁光さん………………」
「ごめんな氷柱、うだうだ迷うのはもう終わりだ。」

 私を抱きかかえる暁光さんの腕は、やっぱり何時もの通りとても温かかった。
 瑞光さんが何かをしてくるよりも早く、暁光さんが瑞光さんを思い切り蹴って、結構な距離飛ばした。

「お前等大丈夫か!!?」

 瑞光さんが遠くに飛ばされた今の内に、暁光さんは雀さん達に駆け寄った。皆さんを見て私は自分の口を手で抑えた。雀さんは左腕が、鳩さんは右腕が無くなってしまっていた。鶴さんはお腹に大きな穴が開いているしで、もう重症だった。

「……………ふっ、随分と来るのが遅かったではないか。」
「そ、そうっすよ………………あっし等、重症っす………………………」
「恨むぞ、暁光…………………」
「悪かったって。あー、ちょっと待ってろ。」

 暁光さんは私を降ろすと、懐から小さな刀を取り出して自分の手に突き刺した。其処から流れる血を雀さんと鳩さんの肩に垂らすと、本当に一瞬の内に腕が元に戻っていた。
 鶴さんにも血を垂らすと、さっきまでの傷が嘘の様に綺麗に治っていた。

「ま、こんなもんか。」
「鳳凰の血って便利っすね。」
「間違っても瑞光の血でやるなよ、大変な事になるから。」

 そう言ってから刀をしまって暁光さんは立ち上がって振り返った。何時の間にか瑞光さんが戻って来ていて、それはもう本当に不機嫌そうな顔をしていた。
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