夕餉添えの贄

琴里 美海

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第壱拾参話

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 村の近くまで来てみると、どうやら何とか冬は乗り切ったみたいで、皆畑仕事に勤しんでいた。だけど誰一人として夜露の事を口にする奴はいなかった。まぁ村の連中からすれば夜露は厄介者だったんだろうけど。

(腹立つ。)

 だが此処は堪えろ。流石にそんな個人的な理由で村人全員殺してみろ、何が起きるか分かったもんじゃない。
 特に何がある訳でも無いから、俺は社に寄ってから家に帰る事にした。
 森の中を歩いて社が見える場所まで行くと、社の前に誰かがいる事に気が付いた。

「夜露?」

 其処にいたのは確かに夜露だった。
 あいつあんな所で何やってんだろうと思い、木の陰から見ている事にした。あんまり疑いたくないが、荒らしか何かかと思ったが、まぁあいつの性格上そんな事がある訳が無く、夜露は社の掃除をしていた。
 誰が建てたかも知らない、そんな社をあいつは一人で必死に掃除していた。

「おい。」
「はい!!」

 声を掛けると相当驚いたのか夜露は飛び上がった。

「あ、えっと、暁光さん。」
「お前何やってんだよこんな所で。」
「えっと、お掃除です。」

 いや、お前それは見て分かるっての。俺が聞きたいのは如何してお前が社の掃除をしてるのかって事だよ。

「其処掃除する必要無いからな。」
「いえ暁光さんは村の守り神で、そんな暁光さんのお社なら綺麗にしないといけませんから。」
「え。」

 まさか、今までもずっとやってたのか?今まで何度か社に行った時、誰が掃除してんのかなって思った事があったけど、ずっと夜露が掃除していたのか?
 本当に、如何してお前が嫌われなきゃいけないんだよ。
 俺は夜露の手を引っ張った。

「え?」
「お前ずっと掃除してたのか?」
「うんと、一番最初は村の人に怒られて、その罰としてずっとお掃除してろと言われたんですが、やっている内に楽しくなって。それに神様の住んでいる場所ってちゃんと分かってからは、やっぱりちゃんとやらないと、とそう思えたんです。」

 そう言う夜露のその言葉には一切の嘘偽りは無かった。
 本当に純粋無垢で、優しくて、人の事ばかり考える、人間らしい一面がそんなに見受けられない奴。こんなに素敵な人間が他にいるだろうか。

「………………そんな毎日掃除しなくて良いからな。それに、今度から俺も呼んでくれ、お前一人に苦労掛けたくない。」
「え、でも申し訳無いですよ。それに暁光さんは神様で……………」
「良いから。俺にはそんなに気を使わなくて大丈夫だから。」

 笑いながら俺がそう言うと、夜露は少し困惑していたが、それでも了承して笑ってくれた。
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