夕餉添えの贄

琴里 美海

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第五話

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 やって来たのは相当小さな村のすぐ近くの森の中にある社で、やっと自由になれた事に俺は一人感動していた。
 大きく伸びをしながら社から出て森の中を歩いた。

「外出歩くとか、凄まじく久しぶりだな。」

 元々そんなに出歩かなかった上に、ここ最近は瑞光に監禁されてた様なもんだったからな。
 暫く森の中を歩いている時、頭の中に声が響いた。

「守り神よ、村の為にあの女を殺してくれ。」

 俺は首を思い切り振ってその願いを無視した。
 昔は手紙やらが届いて、其処に書いてる願いを叶える様なそんな感じだったけど、守り神ってのはそれとは変わって、社に届いた願いが直接俺の頭に来る。まぁどうにも殺してくれって内容が多いんだけど。
 他者を殺す願いはもう叶えない。不幸にする願いだってもう叶えない。

(村の為?反吐が出る。)

 村の為なんて尤もらしい理由付けて嫌な奴を排除したいだけだろうが。
 そんな事を考えながら俺は社に戻った。小さな社の前には村で取れたのであろう作物が見える。
 足音が聞こえると俺は咄嗟に木の陰に隠れた。
 社の前に現れた足音の原因は、数輪の花を握った小さな子供だった。だけど見た目が普通の人間の見た目じゃない。
 真っ白い髪に青い瞳。

(妖怪?)

 いや普通の人間だ。見た目が違うだけの人間の子供だ。
 そいつは社の前に持って来た花を置くと柏手を打った。

「今日も村の皆が健康でありますように。今日も村の皆が平和でありますように。今日も村の皆が幸せでありますように。」

 その願いを聞いて俺はつい表に出ちまった。

「おい。」

 声を掛けるとそいつは肩を大きく動かして反応し、俺を見て怯えた様な顔をした。まぁ明らかに髪色があり得ない色だし、仕方ないか。
 だけどどうやらそうじゃない様だった。

「私、別にお供え物を取ろうとした訳じゃありません。」
「は?」
「あ…………私みたいなのが来てごめんなさい!!」
「あ!おい!!」

 そいつはすぐに村の方へと走って逃げて行ってしまった。別にそんな疑いを掛けた訳じゃないんだけどな。
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