王子発掘プロジェクト

urada shuro

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第7章

レオッカとナナシと(2)

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 ルルダ様はおぼつかない足取りで、レオッカに歩み寄った。

「ま、待て……! レオッカ殿、いいい今のは、まさか、まま魔法……っ」
「そ。履歴書では明かしてなかったけど、僕の本名はレオッカ・ニナ。闇魔法使いニナファルドと、薬剤を司る神族の調合物だよ」
「ニ、ニナファルド、だと……?! な、なにを言うか! ニナに子供がおるわけが……」

 黙ったまま、あたしもルルダ様と同じ思いで仰天する。
 レオッカは愛おしそうに、自分の胸の真ん中あたりを撫でた。

何時いつだって、歴史には裏があるものでしょ。僕はニナファルドの子供だよ。身体の内側から感じるんだ。魔魂に刻まれた系譜を……ね」

 ルルダ様は「全く信じたくない」といった様子で、うわ言のようにつぶやく。

「そ、そんな、バカな……ニナまで、協定を破って……? ももももしや、ニナも我が国の征服を狙っておったと……?!」
「まさか。メっちゃん曰く、僕が産まれたのは純粋な愛の結果、らしいよ」

 只今絶句中のルルダ様に代わり、あたしが立ち上がって質問者になる。

「あ、あの、レオッカもナナシと同じなの? 魔法で、魔魂を封じられて……?!」
「うん。僕は父親の魔法で、母親が妊娠した地点……つまり着床した直後に、魔魂を封じられたんだ。その頃だと、まだ魔魂が小さいし安定してないから、悪魔女にも新たな魔魂が生まれたことを悟られにくいんだって。きっと、彼の親もそうしたんだと思うよ。ま、僕が彼と違うのは、僕は5歳のときから、魔法使いだっていう自覚を持ってたってことかな。メっちゃんの家にあった魔法書もたくさん読んでたから、知識も持ってるしね」
「え……? なんで自覚が? ナナシには記憶がなかったのに」
「もちろん、メっちゃんから聞かされたんだよ。あなたは本当はニナの子供、魔法使いなの……って、毎日、夜な夜な、延々と」
「じゃあ、メイラールドさんはニナファルドさんに子供がいる事知ってたの? 悪魔女は知らなかったのに、どうして」
「ま、そのへんの事はいつかお茶でも飲みながら話そうね。とにかくそういうことだから……ほんとは僕、車の中でお祓いの話を聞いてからずっと、受けようか帰ろうか迷ってたんだ。でも、こういう状況になっちゃったんだもん。マトリには恩があるからね」
「レオッカ……」

 あたしがお礼を言う前に、レオッカの視線が動いた。その先には、第二の裏門の向こうからこちらへ駆けてくる、数人の人影が見える。どうやら、大臣の呼んだ「応援」が来たらしい。

「じゃ、僕たちは行くよ。相談役さんも、移動の際は足元に気をつけてね。さっき、アーチにバリア張るの忘れちゃったから、そのへんぐちゃぐちゃになってるし」

 レオッカの言葉を受け、ルルダ様は我に返ってあたりを見回した。

「はあっ! ア、アーチがっ……ししし白の地がぁッ……!」

 見る影もなく石の山と化した重要施設を目の当たりにして、力なく座り込む。

 大臣の「応援」は、足音が聞こえるほどすぐそこに近づいていた。彼らの髪型や服装も、もうここからはっきり確認できる。
 焦って走り出そうとするあたしの進路を、レオッカの腕が妨げた。

「レオッカ、とりあえず、あのひとたちから逃げないとっ」

 レオッカはダンスに誘う王子様のように、こちらに手を差し出す。

「空間移動の魔法、っていうのがあるんだけど」
「――!」

 目を見開くあたしに、王子様(候補)が優しく微笑む。

「手を、重ねて。僕を信じられるなら、ね」

 淀みなく澄んだ瞳に射抜かれ、あたしは一瞬、息が止まる。

 正直、まだわからないことだらけだ。戸惑いもある。
 それでも、疑う気にはならなかった。彼も最早、あたしにとっては親愛の対象だ。

 差し出された手のひらに、そっと、そろえた指を置く。レオッカはそれを、きゅっと握った。男性の、やや骨ばった感触に包まれる。

「……きみは僕が守るよ」

 覚醒した少年の眼差しは、いつになく穏やかで、紳士的に見えた。





「気がついたら、知らない場所に立ってました」

 はじめての空間移動魔法体験は、そんな「未確認飛行物体にさらわれたと言い張る一般人の後日談」に似た感想しか持てなかった。

 レオッカに手を握られた数秒後、いきなり、ぱっと周りの景色が変わったのだ。
 巨大な絵画が飾られた壁。大理石の床。高い天井――。
 視界の大部分が灰色だった先程までとは、明らかに違う空間にいる。塵の舞う埃っぽさもない、やたらと縦に細長い部屋の中だ。なにやら、騒がしい声がする。

「彼の半径10メートル以内、安全な場所――に、移動してみたんだけど……」

 レオッカは、「見て、アレ」と数メートル先、部屋の突き当りを指差した。
 突き当りには壁一面に大きな大きなドアがあり、それを守るように、盾を持った警備隊員たちがひしめき合っている。

 そしてもうひとり。こちらに背を向けるように立ち、隊員達と向き合う金髪の頭――ナナシだ。手には背の丈よりも大きな鎌が握られている。騒がしさの原因は彼らのようだ。

「どけってば。お前らじゃなくて、オレは王様に用があるんだ!」
「ふざけるな! ここから先は絶対に通さん!」

 どうやら、ここは部屋ではなく廊下らしい。窓から覗く景色を見る限り、かなりの上の階だ。
 もうこんなところまで来ていたなんて……!

 ナナシの腕が動く。
 隊員たちは一様に強張った顔をし、素早く盾に身を隠した。重なり合う盾と盾の隙間から、最後尾の隊員がナナシに向かってライフルを構える。

「ま、待って! ちょっと待って、みんなっ……!」

 叫びながら、あたしはナナシに向かって駆け出した。
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