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天邪鬼
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俺は少し思い出していた。数年前に拳法道場に通っていた頃のことを。
当時は本当になにかと尖っていて、教えてもらいに通ってるくせに師匠にすぐ突っかかっていたし、門下生ともすぐ喧嘩をしていた。そんな問題児だった。
「だからおっさんと呼ぶな! タクロウよ、何度言えば分かるんだ。」
小さな道場の隅っこで、師匠に俺はまた叱られていた。とにかく他の奴らと同じように「センセイ」とか「師匠」とか呼びたくなくてずっと「おっさん」と呼んでいたんだ。
「おっさんはおっさんなんだから仕方ないだろ。ハゲジジイにでも変えるか?」
叱られてるにも関わらず腕組みをして師匠を睨みつけていた。
きっと他の奴らからすれば、早く居なくなって欲しかっただろう。
「誰がハゲかぁ!!」
激昂した師匠の頭は相変わらず光っていた。
その日は基礎稽古の日で、実戦稽古が好きな俺からすれば退屈な日だった。
「なぁおっさん」
「……。なんだ。」
呼称については半ば諦めモードの師匠はしかめっ面を向けてきた。
「この『突きの型』なんだけど……。」
型というのはその武術の基本となるもので、正拳突きだったり、突き蹴りだったりと様々だ。ただ疑問に思う技があって言っても仕方ないんだけれど、師匠に文句をつけた。
踏み蹴りという技がある。どうやら下ににいる敵に対してかかとを突き出し踏むようにし、蹴りを振り下ろすらしいけれど、俺は思う。
「いやまず敵は下に居ないだろ! こんな状況になるわけないのにこんな型意味ねぇよ!」
師匠は眉間に皺を寄せてゆっくりと俺の正面へと歩出た。その顔は、いつも俺がバカにして怒っている表情じゃなく、真剣だった。
その姿に少し気圧されて焦って口が走る。
「なんだよ。俺は間違ったこと言ってねぇぞ。」
いいかタクロウ。と師匠が口を開いた。いつもと違う優しい口調だった。
「お前に教え伝えた『正拳突き』は、実戦で役に立つか?」
「あ、当たり前じゃねーか。」
「じゃあ『胴突き』はどうだ?」
「……あれは、微妙だけど場合によっちゃ使えるな。」
「そうだ。『踏み蹴り』も同じなんだ……」
「いや違うね。」
雰囲気で押し通される気がして俺は口を挟む。
「足下に敵が転がるなんてまず無いだろ。だからこの型には、意味がない。」
師匠はジッと俺を見た。
「どんな状況にも対応できる動きの基本。それが型だ。どんな技にも意味があり作られた理由がある。意味のないものなどないのだ。」
結局なにも俺は言えなくなってしまった。
「うるせんだよおっさん。」
またいつもの言い合いに戻った。
当時は本当になにかと尖っていて、教えてもらいに通ってるくせに師匠にすぐ突っかかっていたし、門下生ともすぐ喧嘩をしていた。そんな問題児だった。
「だからおっさんと呼ぶな! タクロウよ、何度言えば分かるんだ。」
小さな道場の隅っこで、師匠に俺はまた叱られていた。とにかく他の奴らと同じように「センセイ」とか「師匠」とか呼びたくなくてずっと「おっさん」と呼んでいたんだ。
「おっさんはおっさんなんだから仕方ないだろ。ハゲジジイにでも変えるか?」
叱られてるにも関わらず腕組みをして師匠を睨みつけていた。
きっと他の奴らからすれば、早く居なくなって欲しかっただろう。
「誰がハゲかぁ!!」
激昂した師匠の頭は相変わらず光っていた。
その日は基礎稽古の日で、実戦稽古が好きな俺からすれば退屈な日だった。
「なぁおっさん」
「……。なんだ。」
呼称については半ば諦めモードの師匠はしかめっ面を向けてきた。
「この『突きの型』なんだけど……。」
型というのはその武術の基本となるもので、正拳突きだったり、突き蹴りだったりと様々だ。ただ疑問に思う技があって言っても仕方ないんだけれど、師匠に文句をつけた。
踏み蹴りという技がある。どうやら下ににいる敵に対してかかとを突き出し踏むようにし、蹴りを振り下ろすらしいけれど、俺は思う。
「いやまず敵は下に居ないだろ! こんな状況になるわけないのにこんな型意味ねぇよ!」
師匠は眉間に皺を寄せてゆっくりと俺の正面へと歩出た。その顔は、いつも俺がバカにして怒っている表情じゃなく、真剣だった。
その姿に少し気圧されて焦って口が走る。
「なんだよ。俺は間違ったこと言ってねぇぞ。」
いいかタクロウ。と師匠が口を開いた。いつもと違う優しい口調だった。
「お前に教え伝えた『正拳突き』は、実戦で役に立つか?」
「あ、当たり前じゃねーか。」
「じゃあ『胴突き』はどうだ?」
「……あれは、微妙だけど場合によっちゃ使えるな。」
「そうだ。『踏み蹴り』も同じなんだ……」
「いや違うね。」
雰囲気で押し通される気がして俺は口を挟む。
「足下に敵が転がるなんてまず無いだろ。だからこの型には、意味がない。」
師匠はジッと俺を見た。
「どんな状況にも対応できる動きの基本。それが型だ。どんな技にも意味があり作られた理由がある。意味のないものなどないのだ。」
結局なにも俺は言えなくなってしまった。
「うるせんだよおっさん。」
またいつもの言い合いに戻った。
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