ブラッシング!!

コトハナリユキ

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赤い過去

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 殺菌族さっきんぞくに僕はあっさり入った。アテもなく生きてなんとなく死んでしまうよりも、なんだか良さそうに感じたからだろうか。有無を言わさず車に乗るよう言われたから断れなかったからだろうか。自分でも分からなかったけれど、確かなことがあった。

 ーー僕は必要とされている場に行きたかった。

 考えることなんか無く言われるまま生きてきた僕は、必要としたりされたりしたことが無かった。

 特別な事もなく大切な人も居ない今、僕に怖いものは無かったし、野良犬になろうとしていた僕を拾ってくれたその男に、全てを預けてみようと思った。

 僕はその日からクアリクと名乗るよう言われ、10年以上使った名前を捨てた。
 声をかけてきた男は殺菌族のヘッドで、ヤマジといった。 殺菌族に入ると決めた時に彼は1度だけ笑顔を見せた。あとはずっと無表情で掴めない男だった。

 頭は単純に盾になるような鉄砲玉が欲しかっただけかもしれない。でも僕はそれでも良かった。

 ーー僕はもうあの日に死んだも同然なのだから。

 こんな汚れた命。使ってもらえるだなんて有難い位じゃないか。その考えで頭をいっぱいにして、何人も罵維菌族ばいきんぞくの人間を消した。

 はじめの頃はその度に僕は沢山嘔吐して、沢山涙した。でも、それもいつの間にか無くなりかけていた頃、僕は周りから”赤目のクアリク”と呼ばれる様になり、少しずつ大きな暗殺しごとも任される様になってきていた。あの日から僕の目は真っ赤なままだ。

 殺菌族に入って少しした頃。中部地区で大きな抗争が勃発した。殺菌族50人と罵維菌族50人の戦争だった。結果として僕達が勝ったが、ひとつの出来事が僕の中にひっかかったままになった。

 あの時の事を僕は今でも夢に見る。
 忘れようとしても忘れられない人が、その戦いの中に居た。
 その人はその戦争の最重要人物であり、僕達の敵だった。


 ”お前のそれ、本心なのか?”
 ”お前、本当は……。”


 僕はいつもこの言葉を夢の中で聞いている。そして「言えよ! なんて言ったんだよ!」と声の主に問いかけるが返答は無く、目をさます。僕の中で解決できないままのことだ。
 
 
 


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