この指灯せ

コトハナリユキ

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いっこずつ

信じること

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「はは…奴らが…変われる訳ないじゃないか…。」

 そう言いながらも高柳さんの涙は止まらない。そして手がまた大きく震えている。

「じゃあ…なんで泣くんですか。高柳さん、あの3人のこと…彼らのことでさえ、本当は信じたかったんじゃないですか?」
「なに…?」
「高柳さん…あなたは"いつかは彼らも変わってくれる"って信じたかったんじゃないんですか?」
「ちがう。そんなはずない…!」
「なら、どうして僕らに話をしたんですか?本当は、高柳さん…殺人を止めて欲しかったし、わかって欲しかったんじゃないんですか?」
「ちがう…ちがう…」

 高柳さんは後ずさりし、息もさらに小刻みになっていく。

「あの古本屋で見せた笑顔が、本当の高柳さんのものなら…あなたは本当は優しくて、人を信じれる人だったんでしょう!?」
「それ以上…言うな!…もう言うな!」

 悲鳴を上げるように彼は僕の言葉を止めようと叫ぶ。

「僕は…高柳さんのことを優しい人だって信じてます。僕らを殺せる瞬間なんていくらでもあった…でもあなたは…。」
「やめろぉ!…もう…もう全部が遅いんだよ…!僕は」

 部屋中に響く絶叫とともに、高柳さんは持っていた薬をすべて飲み込んだ。

「逃げよう空也!もうあいつどーなるか分かんないって!やばいって…!」

 谷崎が侠山くんを背負って走ってきた。

「いや…ダメだ。」
「なんでだよ…おい!」

 薬の効果で高柳さんの体は大きく大きく膨らんでいった。僕らはそれをただ眺めていた。限界まで大きくなった時点で高柳さんは悲しそうな表情で僕を見た。

「…。」

 無言の数秒だった。
 そして一気に体が収縮し、元の体のサイズよりも、さらに細く、骨と皮だけの身体になった姿が残った。

「げほぉっ!」

 大量に血を吐き、ガクンと膝から崩れ落ちたが、それでも彼は僕を見つめていた。
 ヒューヒューと呼吸音がかすかに聞こえる。

「…高柳さん。」
「空也くん…僕は…。」

 高柳さんが笑った瞬間、彼の体は一瞬で膨張し、風船が弾けるように吹き飛んだ。
 "CRY"の過剰摂取による超反応に身体がついていかなかったんだろう。
 僕らは彼の血を浴び、声が出せなかった。

 "なんで…。"

 その言葉だけが、心の中で何度も何度も出ては消えていった。
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