この指灯せ

コトハナリユキ

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いっこずつ

命を使う理由

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「さ、さっきまでの話を君はちゃんと聞いていたのか?」

 鼻息が荒くなり、声も少し荒らげ手が奮っている。高柳さんは続けた。

「僕は彼らのような犯罪者・犯罪者予備軍を一掃し、一般の人達が平和に暮らせるようにする。そう…僕は救世主メシアなんだよ。」
「救世主だなんて随分と高尚だな。救世主ってのは…そういうお薬がなきゃなんもできねぇのか?身体も戻ってきたんじゃね?」
「…。」

 確かに薬の効果がひとまず切れ、高柳さんは元の体付きに戻っていた。だが呼吸は小刻みになり、さらに手は震えているように見える。おそらく、依存状態に陥っているんだろう。

「…ふふ。だから、なんだっていうんだ?ヒーローだって、様々な条件下でしか力を発揮できない者も居るじゃないか。それと、同じこと…」

 ポケットから薬の瓶を取り出し、余裕の表情を見せる高柳さん。

「あのクラブへ行けば、いくらでも薬なんて手に入る。もしこの薬が、僕の身体を蝕み、いつか僕が果てる時が来たとしても一向に構わない。…それで救える人生がひとつでもあるのなら、僕は僕の人生に大きな価値があったと死に際に言ってみせる。」

 呼吸がどんどん小刻みになっていく。それを見て疑問も湧く。

「…どうして、そこまでするんですか?」
「どうして…?」
「高柳さんの復讐はさっき終わった。なのに、自分の命を削ってまで…そのよく分からない薬を使ってまで…誰かの為に、殺しを続けないといけない理由が…わからないです。」

 高柳さんは肩で息をしながら、小さく微笑んだ。

「はは…空也くん。初めて会った日のこと…覚えているかい?」
「…はい。」

 高柳さんは深呼吸をして息を整えようとしたが、咳き込んでしまった。「ダメか…。」そう呟いている。

「ふぅ…僕は、この数年間ずっと辛かったし、苦しかった。…今思えば、誰かに話せばよかったかもしれないし、助けを求めればよかったかもしれない。両親は居たし、電話相談窓口をはじめ、社会の体制も多少は整っていたのにね。」

 ゲホゲホとまた高柳さんは咳き込んだ。

「でも、僕みたいにそれらを使おうとしない人も居る。そしてそんな人を虐める人も居る。…いろんな人が居る。殺人鬼だって居る…。」
「…。」
「君が、古本屋でシリアルキラーの小説を読もうとしてて…少しだけ話した時、君はやばい人に会ってみたいとか言っていた。でもね…やばい人なんて、実はいつでも会えるんだよ。」
「…どういうことですか?」

 僕はじっと高柳さんの目を見て、動かずに話を聞いている。

「君の仲間の…弟くんもそう、谷崎くんもそう、君たちのような人間は今は"不良"だなんて生優しい扱いで収まっているが、その存在はそんな易しいものじゃない…彼らは犯罪者だ。その不良たちのせいで、日本だけでも毎年何人がいじめを苦に自死をしているか、知らないことはないだろう?…奴らはいじめというカモフラージュを使う歴とした犯罪者たちだ。」

 高柳さんは侠山くんに視線を落とし、また僕を見た。

「僕はもう自分のような被害者をこれ以上出さない。その為には…奴らを殺すしかないんだよ。これが、この薬を使いこなせる僕の使命なんだ。何度でも言おう…僕は弱者を救う救世主だ。」

「…違うと思います。」
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