68 / 73
いっこずつ
乞う
しおりを挟む
まさに独白だった。
僕らは高柳さんの話をずっと聞いていた。そして、凶悪殺人犯を前にして、心の中で、正義とか悪とか今まで考えたこともなかった倫理観が大きく揺らいでいるのを感じた。
「これでほとんど話せたかな。…人にこんなこと、話したことなかったけど…案外、いいもんだね。」
少しの清々しさを感じる笑顔をぶら下げて、侠山くんの元に高柳さんは歩み寄った。お兄さんはそれを見てまた叫んだ。
「やめてくれ!優には関係ないんだ!…やめてくれ高柳ぃ!」
「兄貴…。」
侠山くんの両腕はまだ縛られたままだ。
「すー…はぁ…。」
高柳さんはゆっくり深呼吸し、お兄さんを横目でチラリと見た。
「…あの最後の日、僕も同じような気持ちだったよ。侠山くん、君は僕以外のものに手を出した。」
「!」
そうして高柳さんは無言で侠山くんを何発も殴り始めた。
「やめろお前ぇ!」
「やめてください!!」
僕も谷崎も止めに入ろうとしたが、物凄い力で跳ね除けられてしまう。お兄さんの悲痛な叫び声だけが室内に響く。
「やめろ…やめろやめろ、やめろぉぉぉぉ…!!」
10発以上殴ったあたりで高柳さんは手を止め、侠山くんから手を離した。
「あ…あに、き。」
顔中から血が吹き出し、侠山くんは倒れ込んだ。
「…分かったよ。じゃあ、謝らせてあげよう。…僕の母に。ほら、いいよ…謝って。」
そうまた微笑んで高柳さんは、お兄さんの前にやってきた。お兄さんは
「すみませんでした…!すみませんでした!」
と何度も何度も首を前後に振って謝罪の意を示した。
「ふふ…。」
鼻で笑い高柳さんは、お兄さんの髪の毛を掴んで上へと引っ張った。
「ぐぅ…あぁぁ…。」
「あの時も…君は僕に、こう言ったよね。」
「…?」
お兄さんの耳元で囁きながら、高柳はポケットから何かを取り出し、飲み込んだ。…"CRY"だ。
「謝罪の答えなんだけど…。」
高柳さんの体つきが変化していく。
「"黙ってろやインキャ野郎。気持ちわりーんだよ"。」
「あ…あ…。」
笑顔で囁く高柳さんの目つきも体つきも、既に別物だった。中島くんが見せた変化とは比べ物にならない…。
「高柳…ゆる…。」
「さよなら…侠山くん。」
高柳さんに持ち上げられていたお兄さんは、頭部を垂直に机に落とされ、そのまま全体重をかけられ押しつぶされ絶命した。血液だけじゃなく、様々なものが室内に飛び散った。
「兄貴ぃぃ!うわぁああぁぁ…!!」
目の前でお兄さんを無惨に殺害された侠山くんは、高柳さんへ体当たりをしようとしたが、ビンタ一発で部屋の隅へ飛ばされてしまった。
「侠山ぁ…!」
谷崎がすぐに走り寄り、侠山くんを抱きかかえた。
「はぁ…本番が終わったなぁ。まぁ、泣くことはないよ弟くん、これは仕方のないことだったんだ。」
「てめぇ…!」
口の前に人差し指を立てて「シィッ」と、高柳さんは侠山くんに静かにするようポーズをとった。
「君も…自分の胸によく手をあてて考えるんだ。君が実際に何を学校でしていたかを僕は知らない。だが、兄弟揃って似たようなことをしていたんじゃないかい?」
「…。」
侠山くんは何も言い返せなかった。事実だったからだ。
「そういうことなんだね…。つまり、君たちのような不良生徒に苦しめられて来た学生は…山ほど居る。中には自分の命を絶った者だって沢山いる。」
確かに、その話自体は…本当だと思う。でも、何かが…何かが違うんじゃないか…?
僕らは高柳さんの話をずっと聞いていた。そして、凶悪殺人犯を前にして、心の中で、正義とか悪とか今まで考えたこともなかった倫理観が大きく揺らいでいるのを感じた。
「これでほとんど話せたかな。…人にこんなこと、話したことなかったけど…案外、いいもんだね。」
少しの清々しさを感じる笑顔をぶら下げて、侠山くんの元に高柳さんは歩み寄った。お兄さんはそれを見てまた叫んだ。
「やめてくれ!優には関係ないんだ!…やめてくれ高柳ぃ!」
「兄貴…。」
侠山くんの両腕はまだ縛られたままだ。
「すー…はぁ…。」
高柳さんはゆっくり深呼吸し、お兄さんを横目でチラリと見た。
「…あの最後の日、僕も同じような気持ちだったよ。侠山くん、君は僕以外のものに手を出した。」
「!」
そうして高柳さんは無言で侠山くんを何発も殴り始めた。
「やめろお前ぇ!」
「やめてください!!」
僕も谷崎も止めに入ろうとしたが、物凄い力で跳ね除けられてしまう。お兄さんの悲痛な叫び声だけが室内に響く。
「やめろ…やめろやめろ、やめろぉぉぉぉ…!!」
10発以上殴ったあたりで高柳さんは手を止め、侠山くんから手を離した。
「あ…あに、き。」
顔中から血が吹き出し、侠山くんは倒れ込んだ。
「…分かったよ。じゃあ、謝らせてあげよう。…僕の母に。ほら、いいよ…謝って。」
そうまた微笑んで高柳さんは、お兄さんの前にやってきた。お兄さんは
「すみませんでした…!すみませんでした!」
と何度も何度も首を前後に振って謝罪の意を示した。
「ふふ…。」
鼻で笑い高柳さんは、お兄さんの髪の毛を掴んで上へと引っ張った。
「ぐぅ…あぁぁ…。」
「あの時も…君は僕に、こう言ったよね。」
「…?」
お兄さんの耳元で囁きながら、高柳はポケットから何かを取り出し、飲み込んだ。…"CRY"だ。
「謝罪の答えなんだけど…。」
高柳さんの体つきが変化していく。
「"黙ってろやインキャ野郎。気持ちわりーんだよ"。」
「あ…あ…。」
笑顔で囁く高柳さんの目つきも体つきも、既に別物だった。中島くんが見せた変化とは比べ物にならない…。
「高柳…ゆる…。」
「さよなら…侠山くん。」
高柳さんに持ち上げられていたお兄さんは、頭部を垂直に机に落とされ、そのまま全体重をかけられ押しつぶされ絶命した。血液だけじゃなく、様々なものが室内に飛び散った。
「兄貴ぃぃ!うわぁああぁぁ…!!」
目の前でお兄さんを無惨に殺害された侠山くんは、高柳さんへ体当たりをしようとしたが、ビンタ一発で部屋の隅へ飛ばされてしまった。
「侠山ぁ…!」
谷崎がすぐに走り寄り、侠山くんを抱きかかえた。
「はぁ…本番が終わったなぁ。まぁ、泣くことはないよ弟くん、これは仕方のないことだったんだ。」
「てめぇ…!」
口の前に人差し指を立てて「シィッ」と、高柳さんは侠山くんに静かにするようポーズをとった。
「君も…自分の胸によく手をあてて考えるんだ。君が実際に何を学校でしていたかを僕は知らない。だが、兄弟揃って似たようなことをしていたんじゃないかい?」
「…。」
侠山くんは何も言い返せなかった。事実だったからだ。
「そういうことなんだね…。つまり、君たちのような不良生徒に苦しめられて来た学生は…山ほど居る。中には自分の命を絶った者だって沢山いる。」
確かに、その話自体は…本当だと思う。でも、何かが…何かが違うんじゃないか…?
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園最弱のバイト君、突然のハーレム生活!? 〜ハイテンションで逆襲の日々〜
邪冨†社不魅
ミステリー
ワオッ!ワオッ!ワオッ!驚愕の短編集がここに誕生!君はこの不安感を耐えられるか!? 一編一編が、あなたの心の奥底に潜む恐怖を引き出す!ハイテンションな展開に、心臓がバクバク!ドキドキ!ギャアアアア!
おい
お前
これを読んでるお前だよ
なあ
君に頼がある
Twitterをフォローして拡散して印刷して壁に貼ってチラシにして配りまくってくれ
マイグレーション ~現実世界に入れ替え現象を設定してみた~
気の言
ミステリー
いたって平凡な男子高校生の玉宮香六(たまみや かむい)はひょんなことから、中学からの腐れ縁である姫石華(ひめいし はな)と入れ替わってしまった。このまま元に戻らずにラブコメみたいな生活を送っていくのかと不安をいだきはじめた時に、二人を元に戻すための解決の糸口が見つかる。だが、このことがきっかけで事態は急展開を迎えてしまう。
現実に入れ替わりが起きたことを想定した、恋愛要素あり、謎ありの空想科学小説です。
この作品はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/mystery.png?id=41ccf9169edbe4e853c8)
線路と暗闇の狭間にて
にのまえ龍一
ミステリー
将来の夢について、未だロクなもの一つ抱けていない女子高生、尾上なち。高校生活二年目も終わりに差し掛かる二月の中旬、登下校用の電車に揺られ、いつも通り帰路に着こうとしていた。ところがその日、なちの乗っていた電車は線路を外れ、雨混じりの暗闇へと転落してしまう。
都心から離れた山間部、しかも夜間であったために救助は絶望的という状況の中、無惨にひしゃげた車内で生き残ったのはたった一人、なちだった。幾度も正気を失いそうになりながらも、暗闇の中車内に散らかり横たわる老若男女の遺体と共に、なちは車内から脱出する方法を模索し始める。
なちが電車に搭乗する少し前、彼女は青田駅のホームにて同じ高校の男子生徒『女乃愛人』の〈声〉を聞き、後に転落した車両の中で白猫に姿を変えた彼と対面する。さらに車両内には金と銀のオッドアイをした喋るが鳴かない黒猫『オズ』も現れ、戸惑うなちに淡々とこう告げる―――ここは〝夢〟の中だ、助かりたければオレについて来い、と。
果たしてなちは〝夢〟から抜け出し、あるべき場所へと戻れるのだろうか。そして、彼女は自らの意思で夢を描き出すことができるのか。
同窓会にいこう
jaga
ミステリー
大学4年生、就職活動に勤しむ江上のもとへ小学生時代のクラスの同窓会の案内が届く
差出人はかつて小学生時代に過ごした九州の田舎で淡い恋心を抱いた「竹久瞳(たけひさ ひとみ)」からだった
胸を高鳴らせ10年ぶり訪れた田舎での同窓会の場で竹久瞳から衝撃の事実を聞かされる
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/mystery.png?id=41ccf9169edbe4e853c8)
一人分のエンドロール
三嶋トウカ
ミステリー
ある日俺【野元最乃-のもともの】は、一人の女性が事故死する場面に出くわした。
その女性の名前は【元伊織-はじめいおり-】といい、俺の職場のすぐ近くのカフェで働いている。
人生で一度あるかないか、そんな稀有な状況。
――だと思っていたのに。
俺はこの後、何度も何度も彼女の死を見届けることになってしまった。
「どうやったら、この状況から逃げ出せるのだろう?」
俺は彼女を死から救うために『その一日が終わるまでに必ず死んでしまう彼女』を調べることにした。
彼女のために。
ひいては、俺のためにも。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる