この指灯せ

コトハナリユキ

文字の大きさ
上 下
66 / 73
メシアの誕生

死んでいけ

しおりを挟む
 僕は侠山を地下室の椅子に座らせ、縛り付けた。
 それから一日ずつ彼の身体をもいでいった。指1本ずつ、指がなくなったら手、そして腕…そんなかんじで。
 最初は強気だった彼も自分の状況を把握し、絶望し、許しを乞う日が続いたが、右手が無くなったあたりで完全に諦めたようだった。
 万が一自殺されては困るので猿轡さるぐつわで舌を噛み切らないようにしたり、出血多量で死なれても困るので止血や輸血をしっかり行い、消毒だって欠かさなかった。栄養として点滴も打っていた。
 そう…彼は殺される為に生かされる日々を過ごしていたのだ。
 侠山を拉致した翌日から、藤宮と佐川からの連絡が彼のスマホに何度も入っていたが、しばらくは放置していた。
 彼のスマホには僕を痛ぶった動画が大量に保存されていた。

「ねぇ侠山くん…これをしている時。君はどんな気持ちだった?」

 そう尋ねながら、一緒に動画を眺めた。全く同じことを、彼にはしてあげた。プールに落とすことはできなかったのはちょっと心残りではある…。
 侠山の耳を削いだのも、謎の薬品複数種を右目に点眼したのも、確かその頃だ。彼が僕の辛かった気持ちを痛感すると同時に、彼の気持ちも少しだけ分かった気もした。
 人は人をいじめている時、不思議と快感を感じる。彼も一種の病気だったのかもしれない。…まぁ、だからといって許されることは決してないけれど。
 僕は侠山の拉致から数日してから、藤宮と佐川に連絡した。侠山の番号から電話がかかってきて出てみたら、相手が僕なんだから、さぞ驚いただろうね。 
 昼間に2人を近所の緑地公園へ呼び出した。

「高柳ぃ、どーなっとんだ?」
「なんでおめーが侠山のスマホ持ってんだこらぁ!」

 2人ともやけに荒ぶっている。侠山がどのような状況にあるか分からないから怖いのだろうか。

「…ここじゃあ目立つし、公園の中に入らないかい?」

 臨戦態勢の2人を緑地公園の中へ連れ込んだ。
 かなり奥まで行って、よっぽど音や声が漏れないところまで進んだ。

「おい!どこまで行くつもりだ!…侠山はどこだなんだコラぁ!?」

 しびれを切らして佐川が大声で捲し立てるが、僕は動じない。

「少ししたら…連れていくよ。」
「あ?」
「…僕は自分はどうなってもいいと思ってた。でも、君らは超えてはいけない一線を超えたんだ。」
「なに言ってんだてめ。」

 佐川が殴りかかってきたので僕は一歩下がって避けた。

「償ってもらうよ。」

 薬を取り出して僕は飲み込んだ…その瞬間だった。

『ド!』

 鈍い音が僕の身体中に響いた。藤宮が素早い動きで僕の腹部に拳を入れたのだ。ただ、僕にはすでに効いていなかった。藤宮は僕の顔を見上げて"ありえない"という表情を浮かべた。

「た、倒れんのか…?」
「藤宮ぁ!なに力抜いてんだこらぁ!」
「…ぬ、抜いとる訳…ねぇだろ。」

 怒号を飛ばす佐川とは対照的に、僕の変化に気づいた藤宮は曲がりなりにもボクサーだった。

「あぁ…抜いてないね。きっと誰でもダウンする拳打だったと思うよ、藤宮くん…おつかれさま。」
「え。」

『ドサっ。』
「!」

 藤宮の右腕を手刀で切り落としてみせると、彼は悲鳴を上げだした。それを見て佐川は腰を抜かしてしまったようだった。僕は落とした腕を拾って2人に語りかけた。

「さぁ…自分たちが今まで、僕に何をしてきたかをよく思い出してね。そして…」
「おいどーなってんだよ、こいつ…!!」

 2人はもう動けなかった。

「…死んでいけ。」

 僕の言葉は聞こえていたんだろうか…あっという間に殺してしまった。反省する時間は、与えてあげられなかったかもしれない。

「…。」

 僕は改めて現状を見渡した。
 思ったよりもバラバラにしてしまったな。一度で持ち帰るのは無理だ。僕は拾える部分を持って一度帰宅した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

四次元残響の檻(おり)

葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
ミステリー
オカルトに魅了された主人公、しんいち君は、ある日、霊感を持つ少女「幽子」と出会う。彼女は不思議な力を持ち、様々な霊的な現象を感じ取ることができる。しんいち君は、幽子から依頼を受け、彼女の力を借りて数々のミステリアスな事件に挑むことになる。 彼らは、失われた魂の行方を追い、過去の悲劇に隠された真実を解き明かす旅に出る。幽子の霊感としんいち君の好奇心が交錯する中、彼らは次第に深い絆を築いていく。しかし、彼らの前には、恐ろしい霊や謎めいた存在が立ちはだかり、真実を知ることがどれほど危険であるかを思い知らされる。 果たして、しんいち君と幽子は、数々の試練を乗り越え、真実に辿り着くことができるのか?彼らの冒険は、オカルトの世界の奥深さと人間の心の闇を描き出す、ミステリアスな物語である。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

ピエロの嘲笑が消えない

葉羽
ミステリー
天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美から奇妙な相談を受ける。彼女の叔母が入院している精神科診療所「クロウ・ハウス」で、不可解な現象が続いているというのだ。患者たちは一様に「ピエロを見た」と怯え、精神を病んでいく。葉羽は、彩由美と共に診療所を訪れ、調査を開始する。だが、そこは常識では計り知れない恐怖が支配する場所だった。患者たちの証言、院長の怪しい行動、そして診療所に隠された秘密。葉羽は持ち前の推理力で謎に挑むが、見えない敵は彼の想像を遥かに超える狡猾さで迫ってくる。ピエロの正体は何なのか? 診療所で何が行われているのか? そして、葉羽は愛する彩由美を守り抜き、この悪夢を終わらせることができるのか? 深層心理に潜む恐怖を暴き出す、戦慄の本格推理ホラー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

陽キャを滅する 〜ロックの歌声編〜

花野りら
ミステリー
 ロボット・AIを駆使するスマートスクール陰陽館高校に、  死神タナトスから脅迫状が届いた。 『天宮凛が自殺したのはお前たちのせいだ』  私立探偵・玉木ヨシカは、JKになって調査をはじめるなか、  神楽六輔が薬物入りのお茶を飲んで倒れ、教室はパニックに!  ヨシカは、犯人を捕まえることができるのか!?  SNS、盗撮などで人の弱みを握るタナトスの目的は? 正体は?  次世代のネット社会にひそむ、ミステリ&サスペンス。  登場人物 紹介  玉木ヨシカ(たまちゃん)・・・探偵(20)  温水幸太(ぬこくん)・・・・・サッカー部エース(17)      大村隆平(りゅ先生)・・・・・担任教師(26)  神楽六輔(ロック)・・・・・・バンドヴォーカル(16)  月乃城王子(王子)・・・・・・ハーフ美少年(16)  内藤翔也(ナイト)・・・・・・剣道部(16)  桜庭二胡(バニー)・・・・・・人気動画配信者(16)  西園寺絵理(エリザベス)・・・お嬢様(16)  別奈ゆり(ゆりりん)・・・・・ゆるふわロリ(16)  菖蒲美玲(委員長)・・・・・・学級委員長(16)  日向小春(こはる)・・・・・・陰キャ(16)  神楽誠(校長)・・・・・・・・陰陽館高校創始者(57)  白峯梨沙(リサ)・・・・・・・スクールカウンセラー(26)  天宮凛・・・・・・・・・・・・退学した女子生徒(16)  タナトス・・・・・・・・・・・陽キャを滅する存在(?)  ヘルメス・・・・・・・・・・・暗躍する存在(?)  アイ・・・・・・・・・・・・・人工知能(?)

パイオニアフィッシュ

イケランド
ミステリー
ぜひ読んでください。 ミステリー小説です。 ひとはしなないです。

処理中です...